「読みの障害」を考えるには,文字・単語を音に変換するデコーディング (decoding)の問題と読解(reading comprehension)の問題を区別して考えることが必要である
ディスレクシアはデコーディングの障害であり,話しことばの音を処理するスキル,特に音韻意識の障害と関係している
音韻意識とは,話された語の音の構造を把握し,操作できる能力のことである
発達性ディスレクシア(以下,ディスレクシア)を持つ児童生徒は,口頭では,しっかりしたやりとりが成立し,知的能力および言語能力に問題がないと思われるが,初見の文章を音読すると,たどたどしく,読み誤りが多く,行を飛ばしても気がつかないなどの姿を見せる。口頭言語でみられる能力と文字言語でみられる能力の差が大きく,周囲を戸惑わせ,「集中力が足りない」「不真面目だ」などと誤解されることが少なくない。
また,小学校中学年になっても,作文で,助詞“は,へ,を”を“わ,え,お”と書き誤り,促音の「っ」が抜け,拗音表記の誤りがみられることも多い。高学年では漢字に苦労し,中学では英語の学習が著しく困難になる。重度の場合は,小学校入学早々に平仮名の学習の困難さが明らかになるが,軽度であると,平仮名・片仮名は少し周囲より遅れ気味ではあっても習得し,漢字の学習には大変な努力を続けることになり,中学で英語の学習が始まったとたんに,努力では補えない困難さに直面して,初めて気づくという場合もある。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では,読みの障害は「限局性学習症/限局性学習障害」の中の「読字の障害を伴う」ものに相当する。その定義には「読字の正確さ,読字の速度または流暢性,読解力」の3項目が挙げられている。付記された「注」で失読症(dyslexia)について「単語認識の正確さまたは流暢性 (accurate or fluent word recognition)の問題,判読(decoding)や綴字の能力(spelling abilities)の低さにより特徴づけられる学習困難の様式について用いられる代替用語である」と主な症状が3つ記されている。さらに続けて「失読症がこの特別な困難さの様式を特定するために用いられた場合,読解力または数学的推理といった付加的な困難さを特定することも重要である」と記されている。日本語で「読み」というと,文字を音に変換することから読解まで,幅広いものを含みうるが,この注の記述では,単語レベルの「単語認識の正確さまたは流暢性 (accurate or fluent word recognition)」および「判読(decoding)」と「読解(reading comprehension)」とを区別している。読みの問題を考える際に,大きくデコーディング(本稿では“判読”ではなく“デコーディング”を用いる)と読解を区別することは重要なことであり,この両者は根底にある要因も異なると考えられている1)。
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