広域周波オシレーション法は,診療報酬改定で認められた検査項目名である。強制オシレーション法を基本原理とし,喘息をはじめとした幅広い病態の臨床評価に使用されている。わが国ではMasterScreen–IOS(JAEGER社)およびMostGraph–01(チェスト社)が使用されており,後者は,筆者らのグループが産学連携で開発した。
音響スピーカーなどによる工学的な空気振動(オシレーション波)を,安静換気している被験者に伝搬させ,口腔内の気流と圧を測定する。特別な呼吸努力は不要である。打診に例えると,指で加える衝撃はオシレーション波であり,発生する音は測定された気流と圧のデータに相当する。
以前はオシロスコープや紙上データを用いていたが,現在,解析はコンピュータで行う。圧の変動幅を気流の変動幅で除したものが呼吸インピーダンス(respiratory system impedance;Zrs)である。生体では弾性などがあるため,気流の波形と圧の波形のピークが一致せずに時間的なずれが生じる。Zrs成分について気流と圧のピークが一致する成分と90度ずれを工学的に分離し,前者を呼吸抵抗(respiratory system resistance;Rrs),後者を呼吸リアクタンス(respiratory system reactance;Xrs)とする。加えるオシレーション波の周波数を変えると,各指標値は変化する。広域周波オシレーション法はその周波数特性の評価を短時間の測定で可能にした。MostGraph–01では,時間解像能を工夫して,周波数特性曲線の時間経過を評価可能とした。呼吸周期内でのメカニクスの変化が3Dカラーグラフィックスで可視化される(図1)1)。
肺は「ガス交換」をする臓器であるが,ガス交換の現場となっている肺胞の中の肺胞気と外気を交換する作業が「換気」である。本法は,換気メカニクスのうち全体の実効的抵抗とも言えるZrsと,その成分であるRrsとXrsの値と周波数特性を評価する。一般にRrsは,上気道や下気道の抵抗および組織抵抗などを含み,呼吸器系全体の抵抗を表す。同様に,Xrsは弾性や慣性などの力学的成分に相当する。
例えば喘息では,発作時に気道狭窄が起こると気道抵抗が高まる。この時,Rrsは気道抵抗も含むため,喘息発作をRrsの高まりとして検知できる。スパイログラムのように努力呼吸をしなくても,気道閉塞の状況が安静換気だけで推定可能であることを意味する。
Rrsの解釈では,抵抗値の高低と周波数依存性の有無の判断を柱とする。Xrsの解釈は周波数特性の解釈が主であり,低周波数領域のXrs値と共振周波数(Fres:X=0となる周波数)によって判断する。呼吸周期内のRrsとXrsの変動は,吸気時と呼気時の差を見る。
一般に,喘息やCOPDなどの閉塞性疾患では,進行するほどRrsが高まる2)。また,低周波数領域でRrsが高くなるような周波数依存性が見られる。Rrsの周波数依存性は健常者ではほとんど見られない。逆にXrsは低周波数で負の値,高周波数で正の値をとるような周波数依存性が健常者でも見られるが,喘息では,より負側に偏位するように変化する。特に喘息では,1秒量が低くなるほどFresが高くなる双曲線の関係にある3)。
低周波数領域と20Hz程度の周波数のRrs値の差に,末梢や中枢などの解剖学的な意味づけを与える概念は,多くの誤解を生んでいる。これらの解釈には,慎重を要する。
有用性が高い臨床応用の代表は喘息管理である。コントロール不良の気道は不安定で敏感である。スパイログラムでは正常範囲でも,潜在的に気道狭窄があればその度合いは直接Rrsの高低に反映し,さらに進行するとFresなどのXrs指標の変化でも明らかとなり,外来通院時の測定で,その日の状態がわかる。1秒量が変化しなくても,Rrsの変化で気管支拡張薬の効果が確認できるなどの薬剤効果の判定だけでなく,吸入ステロイドのステップダウン・アップの判断や,その時点の気道過敏性の推定などに有用である可能性が高い。測定可能な年齢の幅が広いため,小児喘息の管理にも客観的判断の一助となるであろう。
他の臨床応用例は,幅広い呼吸器疾患の病態評価,COPDのスクリーニングと禁煙外来への応用,咳の鑑別,小児喘息のアウトグローの評価,気道過敏性評価,上気道抵抗評価,外科術前評価,健常者のスクリーニングなどがあり,幅広く試みられている。気道の状態をリアルタイムに評価できるため,新たな聴診器のような役割が期待される。
●文 献
1) 黒澤 一:呼吸.2010;29(1):40–7.
2) Ohishi J, et al:BMJ Open.2011;1(2): e000184.
3) 柴崎 篤, 他:アレルギー.2013;62(5):566–73.