最近,多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)に対して非常に多くの新規薬剤が臨床で使えるようになり,予後も改善されてきました。65歳以上のMM患者においても,MPB療法〔メルファラン(melphalan:MEL)+プレドニゾロン(prednisolone:PSL)+ボルテゾミブ(bortezomib:BOR)〕もしくはMPT療法〔MEL+PSL+サリドマイド(thalidomide:THAL)〕で,40年以上にわたって標準治療であったMP療法(MEL+PSL)に比べ全生存期間(overall survival:OS)延長効果が示されたため,日本血液学会のガイドラインでもMPB療法あるいはMPT療法が推奨されています。
私には,OSの延長効果もそれほど顕著とは思えず,有害事象やコスト面を考えた場合,高齢者にはMP療法でもよいのではと思うこともあります。京都府立医科大学・黒田純也先生にご教示をお願いします。
【質問者】
木村晋也 佐賀大学医学部内科学講座血液・呼吸器・ 腫瘍内科教授
高齢化社会におけるMM罹患率は,増加の一途にあります。わが国でのデータとしては,日本骨髄腫学会において,解析可能であった2001~12年に発症した2234症例の初発時年齢中央値は67歳で,このうちECOG PSのスコアが3以上であった症例は20.5%であり1),症例ごとの治療戦略を設定する上での年齢や脆弱性への配慮の重要性がうかがわれます。
MMにおける各種の新規治療薬の導入による奏効度や生存期間,QOLの改善などは,多くのランダム化比較試験(randomized controlled trial:R CT)において示されており,わが国のリアルワールドデータにおいても,近年のOS延長が若年症例のみならず75歳以上の高齢者でも認められています1)。
では,かつての標準治療であったMP療法は,ご質問にあるように,もはやまったく意味がないのでしょうか? この問いには2つの異なる切り口での回答が必要です。
まず,BORやレナリドミドなどの新規治療薬を含有した治療戦略の効果は,MP療法に比べて明らかにまさることがRCTにおいて明確である以上(たとえばVISTA試験では,75歳以上のサブコホートでもMP療法に対するMPB療法の優位性が示されています2)),MP療法を「現代の標準療法」のひとつとして新規治療薬含有戦略と同列に加えることは論理的ではありません。
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