「LDL-Cは低いほうが、動脈硬化性イベントは減る(The lower, the better)」。そう結論するPROVE-IT試験が2004年に報告されて以来、動脈硬化性イベントの「残存リスク」を減らすべく、「LDL-Cをどこまで低下させられるか」が追い求められてきた。しかし、26日からバルセロナ(スペイン)で開催された欧州心臓病学会(ESC)では、LDL-Cではなく「炎症」への介入だけでも、動脈硬化性イベントを抑制できるとする、画期的なランダム化試験が報告された。IL-1βモノクローナル抗体であるカナキヌマブを用いた、CANTOS試験である。27日のホットライン・セッションにて、ハーバード大学(米国)のPaul M Ridker氏が報告した。同氏はかねてより、動脈硬化性イベント発症に炎症が関与していると主張していた。
カナキヌマブは、日本ではマックル・ウェルズ症候群治療などに用いられているIL-1β抗体である。IL-1βからIL-6への情報伝達を遮断し、抗炎症作用を発揮する。
そこで今回Ridker氏は、スタチンでLDL-Cを最大限低下させても炎症が遷延している心筋梗塞既往例において、カナキヌマブによる抗炎症作用が動脈硬化性イベントを抑制するか検討した。
対象は、積極的スタチン治療にもかかわらず高感度C反応性タンパク(hsCRP)濃度が2mg/L以上の、心筋梗塞既往1万61例である。カナキヌマブ50mg群と150mg群、300mg群、そしてプラセボ群の4群にランダム化し4年間追跡した。
その結果、カナキヌマブ群ではいずれもプラセボ群に比べ、hsCRP濃度は著明かつ有意に低下した。一方、開始時に約82mg/dLだったLDL-Cと、およそ44mg/dLだったHDL-Cには、ほとんど変動が見られなかった。
にもかかわらず、1次評価項目である動脈硬化性イベント(心血管系死亡・心筋梗塞・脳卒中)の発生リスクは、プラセボ群に比べ有意差を認めた150mg群と300mg群を併合すると、相対的に15%、カナキヌマブ群で有意に減少していた(HR:0.85、95%CI:0.76-0.96)。
脂質代謝に影響を与えず、炎症抑制だけを介して、動脈硬化性イベントが抑制された形である。Ridker氏は、今後「残存リスク」を「脂質代謝」と「炎症」に分けて考えるべきだと提唱した。なお本試験では、カナキヌマブ群における肺癌リスクの著明減少も認められている。
本試験は、ノバルティス社から資金提供を受け行われた。また、動脈硬化性イベントへの結果はNEJM誌[https://goo.gl/ugGZhA]に、肺癌データはLancet誌[https://goo.gl/8TbkQP]に論文が、いずれも即日、ウェブサイト上で公開された。