【司会】安倍 達(埼玉医科大学総合医療センター名誉所長)
【演者】木崎昌弘(埼玉医科大学総合医療センター血液内科教授)
急性骨髄性白血病(AML)の病態解明は進んでいるものの,治療の基本は今もって化学療法と造血幹細胞移植である
急性前骨髄球性白血病(APL)に対してはビタミンA(ATRA)と亜ヒ酸が著効する
慢性骨髄性白血病(CML)は第二世代チロシンキナーゼ阻害薬の登場で長期かつ深い寛解が可能になるも,有害事象管理が課題になっている
白血病幹細胞をターゲットとした治療で根治へ
白血病には急性白血病と慢性白血病がありますが,これは時間的な長さによる区別ではなく,まったく違う病気です。白血病は血液の腫瘍です。通常,骨髄中には造血幹細胞があり,ここから未熟な血液細胞が産生されて,徐々に成熟した細胞に分化していくのが正常な造血となります。
急性白血病の場合は,造血幹細胞から産生された幼若な細胞が分化能を失って次々に増えていきます。未熟な細胞だけが増えていくので正常な造血が行われません。これに対して,慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)の場合は,未熟な細胞も成熟して分化した細胞も含めて,分化能が保たれた状態ですべての細胞が増えていくのが特徴です。
このほか成熟した細胞が腫瘍化する白血病として,慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)や,九州・沖縄に多い成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)があります。このように,どの段階の血液細胞が腫瘍化するかで,白血病の急性・慢性が決まります。
急性白血病には,急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia:AML)と急性リンパ性白血病(acute lymphoid leukemia:ALL)の2種類があります。AMLでは,芽球が骨髄中で増えてくると,正常造血が抑制され貧血がひどくなる,あるいは白血球,好中球が減って易感染性になる,あるいは血小板が減って重篤な出血などの合併症が起こる。こうしたことが進行性に起こります。
白血病細胞は骨髄中で増殖し末梢血に出て,一部は他臓器へ浸潤する場合もあります。最も面倒なのは中枢神経に白血病細胞が浸潤するケースです。そのほか皮膚や歯肉,肝臓,リンパ節など,あらゆる臓器に浸潤してくる可能性があります。そして,白血病を基礎に播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)により血栓症状と出血症状が同時に起こる病態を呈したり,尿酸の著しい増加による腎機能障害が生じることもあります。また,白血球が非常に増えhyperleukocytosisの状態が持続すると血管内で詰まってしまいます。代謝異常も同時に起こるのが特徴で,放置すると致命的な病気です。
最近では,白血病がなぜ起こるのかが遺伝子レベルでよく理解されるようになってきました。すべてのがんが遺伝子の異常で起こることが判明しており,急性白血病の場合も原因となる遺伝子異常がかなり解析されています。
AMLの場合,発症には血液細胞に少なくとも複数の遺伝子異常が必要なことが明らかにされています。その1つはClassⅠ変異で,細胞の増殖を促すような遺伝子の変異,たとえばRASというがん遺伝子の変異です。RAS遺伝子,あるいはFLT3というキナーゼやKIT,JAK2をコードする遺伝子に変異が起こると,細胞へ増殖するシグナルを与えます。
このような増殖するシグナルに加えて細胞の成熟を止め,細胞分化を障害するようなClassⅡ変異と言われる種々の遺伝子変異が加わることで,AMLの発症につながるとされています。最近,注目されているのはエピジェネティクスを司る遺伝子変異です。遺伝子本体ではなく,それを制御するプロモーター部分でのメチル化あるいはアセチル化などを制御する遺伝子変異の発現が必要になるということです。また,DNAからRNAへ情報が伝達され,蛋白ができるわけですが,RNAに伝達される際にイントロンという塩基配列が除去されてしまうスプライシングという現象があります。ここを司る遺伝子変異も白血病を引き起こすことがわかっています。
最近は,すべてのゲノムシークエンスができるようになりました。AMLの全ゲノムシークエンスで次世代シークエンサーを用いた解析結果では,1症例当たりアミノ酸変異を伴う変異遺伝子は平均13個で,複数の症例で認められる変異は平均5.2個です。
FLT3キナーゼ,転写因子NPM1,エピジェネティクスを制御するDNMT3A,IDH1,TET2遺伝子,これらの遺伝子変異が造血幹細胞あるいは前駆細胞に5個くらい起こると,白血病が起こることがわかってきました。
遺伝子変異がわかってくることで,臨床的に役に立つことのひとつは,予後が推測できるということです。AMLでは以前から染色体異常が非常によくわかっていて,どのような染色体異常があると予後が良・不良になるかがわかっていました。加えて,最近では予後の良さそうな遺伝子変異,あるいは予後の悪そうな遺伝子変異というものもわかってきました。
染色体異常と遺伝子変異について,どのようなものが起こっているかで生存曲線をみた報告では,予後が良いと考えられる遺伝子変異があるとAMLの5年生存率は約80%です。また,FLT3-ITD変異がなくTET2変異があるなどの場合は非常に予後が悪く,AMLの生存率は5年で約10%になります。このように,遺伝子変異を解析することは予後を推測することに役立っています。
したがって,遺伝子変異解析を臨床に応用する場合,予後の悪そうな遺伝子変異を有する症例なら最初から造血幹細胞移植をする,予後の良さそうな遺伝子変異を有する症例ならある程度化学療法でいけるかもしれません。
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