(埼玉県 Y)
内耳動脈は,前下小脳動脈(anterior inferior cerebellar artery:AICA)のmeatal loopという顔面神経(Ⅶ)・内耳神経(Ⅷ)に近接する部分から分岐する頭蓋内の細い血管です。本症例は,破裂末梢性前下小脳動脈瘤(distal AICA動脈瘤)へのクリッピング術の施行例になります。
distal AICAの動脈瘤は非常に稀で,全脳動脈瘤中0.1%1)とされ,血管障害を扱う脳外科医でも生涯1例経験するか,というくらいです。破裂によるくも膜下出血で発症することが多く,動脈瘤のその解剖学的特徴から,くも膜下出血発症時に高率に聴力障害や顔面神経麻痺を合併します2)。また開頭動脈瘤ネッククリッピングの際,どうしてもⅦ・Ⅷの障害を免れない場合や,AICAから分岐する内耳動脈の血流低下をきたす場合があります。その際は術後に顔面麻痺や聴力障害といったⅦ・Ⅷの脳神経症状を認めます。つまりdistal AICA動脈瘤はその他の部位の動脈瘤に比べ高率にⅦ・Ⅷの脳神経症状を呈する脳動脈瘤と言えます。
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