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(2)治せる認知症としての橋本脳症[特集:橋本脳症の診断と治療]

No.4888 (2017年12月30日発行) P.30

松永晶子 (福井大学医学部附属病院神経内科)

登録日: 2017-12-29

最終更新日: 2017-12-25

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  • 超高齢社会と直面しているわが国において認知症患者の増加は社会問題となっている。その中でtreatable dementia,すなわち治癒する認知症を見逃さないことが重要である

    橋本脳症の中には,アルツハイマー病などと誤診されうるような認知症や精神症状をきたす症例がある

    認知症をきたす橋本脳症として慢性の認知症(大脳白質病変)や情動障害も伴う急性・亜急性経過の認知症(辺縁系脳炎型橋本脳症),CJDと似るもの(CJD様)がある

    1. 甲状腺と認知症

    超高齢社会の到来とともに,認知症は大きな社会問題となっている。認知症の中には,適切な診断と治療によって「治癒する認知症」(treatable dementia)が存在するが,高齢者では「加齢性変化」や「アルツハイマー病」と誤診されることがある。治る認知症の中でも,甲状腺機能低下による粘液水腫は古くから知られており,抑うつをはじめとする精神症状や軽度の認知症をきたすことはよく知られている1)2)。甲状腺機能低下による認知症は,記銘力低下や集中力低下などが目立ち,アルツハイマー病と類似している。一方,バセドウ病では精神症状を高率に合併する(Basedow’s psychosis)。不安,易刺激性を認め,多弁,多動となり,抑制を欠き,妄想を生ずることもある。高齢者では精神活動の低下した無欲状態を呈し,特に記銘力低下や集中力低下を生じる。

    このように,甲状腺機能異常と認知症は古くから関連があることが知られている。近年,さらに,甲状腺の機能異常に関連しない,自己免疫異常による治療可能な認知症が“橋本脳症”として注目されている3)。橋本脳症は,様々なタイプの認知症をきたしうる。本稿では,認知症の側面から橋本脳症を取り上げ,代表的な病型を紹介する。

    2. 慢性の認知症(白質脳症型橋本脳症)

    橋本脳症では慢性経過で認知症をきたすことがある。記銘力障害以外に,幻覚・妄想,興奮,逆に意欲低下などの情動障害を呈することがあり,アルツハイマー病やレビー小体型認知症などとの鑑別が重要である。このような慢性経過の認知症をきたす症例では,頭部MRI画像(T2強調画像/FLAIR画像)で大脳白質にびまん性の高信号を認める例がよく認められる。また,脳血流シンチグラムでは,大脳白質病変に一致した脳血流の低下や,脳波での全般性の徐波化がみられ,脳機能の全般的な異常を示唆する所見を伴う。以下に,認知症と落ちつきのなさを主訴に紹介入院となった自験例を紹介する。

    【症例】79歳,女性。橋本病の既往あり。慢性経過の物忘れ,多動と手足の不随意運動(くねる動き)の精査のため当科紹介入院となった。入院時,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa dementia rating scale-revised:HDS-R)では20/30点と軽度の低下を認め,落ちつきがなく,手足に舞踏病様の不随意運動を認めた。頭部MRI(T2強調画像/FLAIR画像)で両側の大脳白質にびまん性の高信号病変を認めた(図1)。甲状腺機能亢進症に対し,チアマゾール(メルカゾール®)で甲状腺機能を正常化するも,多動や不随意運動は不変であった。抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体陽性,抗NH2-terminal of α- enolase(NAE)抗体が陽性であることから橋本脳症と診断し,ステロイド内服治療を行ったところ症状は軽快した。



    このように,高齢者の認知症と落ちつきのなさという,一見するとよくある症状の組み合わせで,自己免疫疾患とは思われないような患者においても,本症を鑑別疾患として考慮する必要がある。また,舞踏病様の動きやミオクローヌス(手足のピクつき)を認めた場合は特に注意が必要である。

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