低栄養は「身体機能の障害をきたす可能性のある,除脂肪体重の低下した状態」と定義され,炎症の有無と程度により,①飢餓型,②慢性疾患型,③急性疾患型に分類される
高齢者の低栄養評価としては,Mini Nutritional Assessment(MNA)が広く用いられ,この方法による低栄養の割合は,地域在住高齢者では5.8%,養護施設では13.8%,病院では38.7%,リハビリテーション施設では50.5%であったと報告されている
健康長寿を実現するためには,低栄養に陥る前段階(低栄養のリスク状態)を早期に発見し,対策を講じることが大切である
低栄養のリスクがある高齢者に対し,蛋白質とカロリーが調整された経口補助栄養剤を早期に利用することで,身体機能の低下を予防・改善しうる
低栄養は,健康な生命活動を行うために必要な栄養素が,質的・量的に不足することで生じ,放置すれば様々な健康障害につながる状態である。Jensenら1)は,低栄養を「身体機能の障害をきたす可能性のある,除脂肪体重の低下した状態」と定義している。近年,米国栄養士会と米国静脈経腸栄養学会は,成人の低栄養を,炎症反応の存在と程度により,①飢餓関連の低栄養(炎症なし),②慢性疾患による低栄養(軽度~中等度の炎症),③急性疾患または外傷による低栄養(高度の炎症),の3つに分類することを提唱した(図1)2)。本稿では主に,飢餓関連の低栄養と慢性疾患による低栄養を念頭に論じる。
大栄養素(糖質・蛋白質・脂質など)の不足によってもたらされる飢餓関連の低栄養は,蛋白質エネルギー栄養障害(protein energy malnutrition)に代表され,エネルギー不足を主体とするマラスムス(marasmus)型栄養障害と,蛋白質の不足を主体とするクワシオルコル(kwashiorkor)型栄養障害にわけられる。マラスムス型栄養障害では,エネルギーを供給する大栄養素が不足するため,エネルギー源として重要なブドウ糖を,体脂肪の分解,筋肉蛋白の分解から糖新生を行って補充する。このため体重減少が顕著にみられるが,血清アルブミンは一般には低下しない。クワシオルコル型栄養障害は,蛋白質が不足するが,エネルギー源となるブドウ糖は存在するため糖新生は活性化されない。このため骨格筋からのアミノ酸供給は活性化されず,肝臓の蛋白合成能力は低下し低アルブミン血症をきたす。高齢者では,栄養摂取量の低下で脂肪や筋肉の分解が起こり,体重減少がみられるが,同時に肝臓の蛋白合成能力も低下しているために,低アルブミン血症もみられるというマラスムス・クワシオルコル混合型の栄養障害がみられることが多い。
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