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超高齢・多死社会を日本の医療は乗り越えられるか/鈴木邦彦(日本医師会常任理事)× 長尾和宏(長尾クリニック院長)【新春対談】

No.4889 (2018年01月06日発行) P.6

鈴木邦彦 (日本医師会常任理事)

長尾和宏 (長尾クリニック院長)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-27

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  • かかりつけ医研修の充実と強化が日医の大きな課題です(鈴木)


    鈴木邦彦(すずき くにひこ)●茨城県生まれ。1980年秋田大卒。東北大第3内科などを経て98年医療法人博仁会理事長。2010年日医常任理事、09~15年中医協委員、14年から介護給付費分科会委員


    開業医の再教育をしなければ地域包括ケアの土台が固まらない(長尾)


    長尾和宏(ながお かずひろ)●兵庫県生まれ。1984年東京医大卒。阪大病院などを経て、95年尼崎市に長尾クリニック開設

    世界が経験したことのない超高齢・多死社会に突入する日本。難局を乗り切るには、医療と介護、行政による地域包括ケアシステムを構築していかなくてはならない。成否のカギを握る日本医師会とかかりつけ医の代表として、鈴木邦彦、長尾和宏の両氏に多方面から論じてもらった。

    【長尾】今日は「日本医事新報」の新春対談ということですが、テーマは「超高齢・多死社会を日本の医療は乗り越えられるか」。2025年に向けて地域包括ケアシステムを確立していこうと、地域医療構想など色々な取り組みが行われていますが、医療と介護、福祉を含めた地域連携はなかなか進んでいません。
    いくつもの課題をクリアしていく必要がありますが、その打開策の1つになり得ると医療関係者からの期待が大きい「介護医療院」の方向性が、昨年11月の介護給付費分科会で固まりました。介護医療院は「医療」「介護」「生活」が一体となる新たな施設ということです。分科会委員の鈴木先生は、介護医療院の展望についてどうお考えですか。

    【鈴木】介護医療院は、創設に至るまでに複雑な経緯を辿りました。2006年度の診療報酬・介護報酬同時改定を巡る議論が大詰めに差し掛かった2005年の年末に、厚生労働省が突如6年後に介護療養病床を廃止する方針を決め、医療関係者に激震が走りました。
    私は当時、日本医療法人協会の常務理事だったのですが、年明けの常務理事会では「昨日まで『作れ、作れ』と言っていたのに急に廃止とは何事か」と怒号が飛び交い、厚労省への不満や不信が爆発したことを鮮明に覚えています。
    そこで私は同じ轍を踏まないようにするために、魅力ある選択肢を用意し、自主的に選ぶことができる形で決着をつけるべきだと一貫して主張してきました。2年半もの間議論を続けてきたので、施設の大枠の方向性が固まったことは感慨深いです。

    【長尾】介護療養病床の廃止決定から数えると、12年の議論を経て、ようやく一応の着地点を見出したということになりますね。

    【鈴木】これまで医療と介護、生活が一体的になった介護保険施設は存在しませんでした。施設基準(表1)を見ても分かるように、療養環境が介護療養より充実することになるので、介護医療院は前向きのメッセージを持った施設と言えます。ただ田中滋分科会長が「ゴールではなくスタート」と強調したように、どう育てていくかが重要です。



    【長尾】介護医療院で提供されるサービスはすべて介護保険事業なのですか。

    【鈴木】そうですね。医療を提供する介護保険施設ということです。立ち位置としては、やはり老健(介護老人保健施設)に近いイメージになります。
    財源が介護保険なので、介護療養から転換したいところは優先的に転換できます。介護療養の廃止には6年の経過措置が設けられているので、その間に。もちろん医療療養からの転換もできますし、一般病床からも可能ではありますが、一般病床からはその地域に介護保険事業計画の枠がないと行けない仕組みになっています。

    【長尾】国や厚労省は最終的に何万床ぐらい整備することを想定しているのでしょうか。

    【鈴木】それは正直分かりません。現在、介護療養が5万9000床ぐらい。医療療養や一般病床からの転換を含め、私見ですが少なくとも10万床以上は確保したいのではないでしょうか。

    【長尾】既存の特養(特別養護老人ホーム)や老健との棲み分けが分かりにくいのですが。

    【鈴木】分かりやすくまとめると特養は「介護プラス生活」、介護医療院は「医療プラス生活」です。老健は今回の介護保険法改正で、在宅復帰支援に加え在宅療養支援も役割とされたので、棲み分けが明確になりました。リハビリテーションを提供し、在宅復帰や在宅療養を支援する施設として、次期介護報酬改定でも、この方向性が強調されると思います。

    【長尾】特養を巡っては、嘱託医のメリットが小さく、人材確保に苦労しているという話をよく聞きます。評価は介護報酬のみで、初・再診料や往診料などの算定ができないということが大きな要因だと思います。その点、特養からも医療が内包されている介護医療院への転換が可能になれば、この辺りの問題が解消すると思いますが、いかがでしょうか。

    【鈴木】地域の介護保険事業計画中での枠ができれば可能です。特養からは転換ではなく新設になるので。

    【長尾】介護医療院の枠の設定を含めて、地域に任されるということですね。

    【鈴木】介護保険は市町村が保険者なので、保険者の判断が重要になります。もちろんたくさん増やすことはできますが、それに伴い保険料が上がりますのでしっかりと計画を立てなくてはいけません。

    【長尾】介護も医療も地域性に合わせたあり方が重要ということを考えると、医療では地域医療の核となる地域包括ケア病棟、介護と生活という視点では介護医療院がそれぞれ大きな柱になっていくイメージですね。

    在宅だけで地域包括ケアを支えるのは難しい

    【長尾】介護医療院で看取りがあった場合、死亡診断書で「死亡したところの種別」は、6番の「自宅」、7番の「その他」のどちらに丸を付ければいいのでしょう。グループホームで亡くなったときにいつも迷うのですが、これを機に死亡診断書の様式を改訂する必要があると思います。

    【鈴木】同感です。介護医療院がある程度増えてくれば、自宅ではないいわゆる居宅の扱いを明確にしていかないと混乱が起きる可能性がありますね。

    【長尾】大きな流れとしては、開業医が行うような長年住み続けている自宅での在宅医療は有名無実化していくと感じますが、いかがでしょうか。

    【鈴木】在宅医療のニーズ自体はこれからも増えていきます。独居や老々介護が増えてくるので、自宅での在宅は難しくなってくるでしょう。
    ただ在宅医療だけで地域包括ケアを支えるというのは現実的ではありません。入院医療や外来医療を必要に応じて使い分けながら、介護施設も活用することで、できるだけ長く住み慣れた地域で暮らしてもらう仕組みを構築することが、地域包括ケアの目指すべき姿だと思います。急性期の大病院には2次医療圏での最後の砦になってもらい、普段は地域包括ケア病棟のような地域密着型の病院が診る。こうした機能分化をより進めていかなくてはいけない。

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