日本遺伝学会は昨年9月、20年以上ぶりの大改訂を施した遺伝学用語集(『遺伝単』生物の科学遺伝 別冊)を刊行した。遺伝における形質の表れやすさを示す「優性/劣性」を「顕性/潜性」へ言い換えるなど、画期的な提案がなされている(表)。同学会会長の小林武彦氏に改訂の意義を聞いた。
優性/劣性が使われ始めたのは、日本に遺伝学が伝わった100年前。当時、メンデル遺伝の法則に関する訳語を考えたのは長野県の高校教師で、彼はdominant/recessiveの和訳として「優性/劣性」を考案しました。のちに顕性/潜性も提唱されています。訳語として正確なのは後者ですが、拡散したのはインパクトの強い前者でした。今回の改訂は、顕性/潜性という本来の姿に戻したとも言えます。
言い換えについては、10年以上前から学会内で検討が積み重ねられてきました。検討に当たって重視したのは、なるべく中立的かつ初学者に親しみやすさを持ってもらえることです。「顕性/不顕性」という候補もありましたが、否定語の「不」が良くない。同じ漢字文化圏の中国の「顕性/隠性」に揃えるにしても、「隠」に暗いイメージがある。学術的に正しい、誤解を生じない、傷つかないという点で、「顕性/潜性」が選ばれました。