口腔内の健康状態が高齢者の健康長寿に影響することは言うまでもない。これまで歯数と歯周病の状態が様々な高齢者の疾病やフレイル状態に関連することが明らかにされてきたが,口腔機能に着目した検討は多くない。
高齢者の場合,残存歯数がたとえ皆無であっても補綴によって咀嚼機能を補っていることも多く,咀嚼機能と老年症候群との関連を明らかにすることが重要である。この点に関して,わが国の高齢者疫学研究のエビデンスが注目されている。
大阪大学歯学部の研究グループは,咀嚼能率,最大咬合力,嚥下機能,唾液分泌量,味覚,口腔感覚などを含む口腔機能の評価を,地域在住の70,80,90歳の高齢者に対して行い,身体・認知機能,医学情報との関連を検討した。口腔機能の低下が栄養摂取の変化をもたらし,メタボリックシンドローム,ロコモティブシンドローム,認知症などによってフレイル状態となり,いずれは自立喪失,要介護に至り健康長寿を脅かす,という研究仮説を立てている。
一連の研究結果としては,咬合力が高く保持されている群においては,緑黄色野菜や抗酸化ビタミン・繊維を多く含む食物の摂取が多く1),頸動脈の動脈硬化度が低く,フレイル2)や認知機能低下3)が少なかった。これは咀嚼機能の低下が高齢者の健康長寿を脅かす可能性を指摘している。
【文献】
1) Inomata C, et al:J Dent. 2014;42(5):556-64.
2) Okada T, et al:J Am Geriatr Soc. 2015;63(11): 2382-7.
3) Takeshita H, et al:JDR Clin Trans Res. 2016;1: 69-76.
【解説】
神出 計 大阪大学保健学専攻総合ヘルスプロモーション科 教授