近年,心房細動に対する抗凝固療法に大きな変革が起こっている。当初は「新規」経口抗凝固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)と言われた薬剤も,上市されてから最長6年以上が経過したため,名称もNOACから直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)と変化した。その簡便性と,ワルファリンと比較し出血性合併症率が有意に低いことから,実地医家にも使いやすい薬剤としてその処方が確実に増えている。一方で,ワルファリンのようなビタミンKを介した抗凝固作用ではないため,出血性合併症をきたした場合や,内服中の緊急手術の際にどう対処すべきかが明確ではなかった。
2016年11月,ダビガトラン(プラザキサ®)に対する特異的中和薬であるイダルシズマブ(プリズバインド®)が発売された。この薬剤はダビガトランに結合しその効果を直接阻害することから,非常に早い効果発現と長い効果持続時間が認められた1)。また,特異的な中和剤であるため副作用はほとんどなく,内服用量や内服時間によらず,1回の静注でダビガトランの効果を急速に中和できる薬剤である。わが国で初期に投与された130例の報告では,61%が緊急手術・外傷に対して使用されていた。現在わが国で処方可能なDOACは4種存在するが,実際処方する際に,出血したときの「保険」として特異的な中和剤があるかどうかが,処方医の意向や患者への安心感につながることが予想される。
【文献】
1) Pollack CV Jr, et al:N Engl J Med. 2017;377(5): 431-41.
【解説】
深谷英平 北里大学循環器内科診療講師