糖尿病黄斑浮腫に対して抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)治療が保険適用になり広く行われているが,その高額な薬価(全眼科医療費の5%=500億円との報告もある),患者への負担(頻回の眼科通院,眼球に直接薬剤を注射することによる合併症などのリスク,精神的負担など)など,問題点が多くある。すべての糖尿病患者をインスリンの単剤治療でコントロールできないことと同じく,すべての糖尿病黄斑浮腫患者を抗VEGF治療のみでは治療できない。
もっとわが国の保険診療体制にマッチし,かつ非侵襲的な治療デバイスが必要である。そこで筆者らが着眼したのが,米国で後眼部に到達する抗炎症薬として発売されていたステロイド点眼薬(diflupredonate ophthalmic emulsion)である。筆者らはこのエマルジョン化したステロイド点眼を,元来点眼では治療できないと考えていた黄斑部浮腫に使用することで,網膜浮腫の改善を得たことを報告した1)2)。この点眼使用法は,特許を取得している(わが国と欧州8カ国で特許を取得)。筆者らは,糖尿病黄斑浮腫の新たな非侵襲的治療デバイスとして,ステロイド点眼薬の臨床応用をめざしている。
【文献】
1) Nakano S, et al:Graefes Arch Clin Exp Ophthal-mol. 2010;248(6):805-10.
2) Nakano Goto S, et al:Acta Ophthalmol. 2012;90 (7):628-32.
【解説】
阿部さち 山形大学眼科