眼科を訪れる人は何らかの視覚的問題を持ち,これらを解決するのが眼科医療機関の使命である。近年の眼科治療,特に手術療法の発達は目覚ましく,失明する患者は減少しているが,網膜色素変性症や遺伝性視神経萎縮など治療できない疾患もいまだ数多い。また,中高年者に多い糖尿病網膜症や緑内障などでは,治療によっても視機能が回復できない病態に陥った患者がいるのも現実である。
このような視覚障害は盲(blindness)とロービジョン(low vision)にわけられるが,盲とは視覚を用いて日常生活を行うことができない者をいう。一方,ロービジョンは,教育や福祉分野では弱視と呼ばれて,視覚によって日常生活が不自由な者を指す。これら視覚障害者の保有視機能を最大限に活用し,QOLの向上を目指すケアがロービジョンケアである。
ロービジョンケアは眼科以外の診療科にとっても必要な知識である。3歳児健診に関わっている小児科医は無論のこと,本特集のテーマである中高年者を診る内科医はじめ脳神経外科医,精神科医などは「見る」ことについて患者と関わる機会が最も多い他科の医師だと思う。近年では介護施設などの嘱託医は整形外科医が務めることが多いと聞く。その他,産業医も外せない他科の医師である。
1 ロービジョンケアの意義
北九州市立総合療育センター眼科部長 髙橋 広
2 糖尿病網膜症患者のロービジョンケア
東京大学大学院医学研究科眼科・視覚矯正科准教授 加藤 聡
3 緑内障患者のケア
岐阜大学医学部眼科臨床教授 川瀬和秀