たばこ販売大手各社が宣伝に注力し、今年中には国内たばこ市場シェアの2割を超えると予想される「加熱式たばこ」(用語解説)。その健康影響をテーマに、日本医学会連合(門田守人会長)が3月25日、都内でシンポジウムを開催。医療関係者ら約300人が参加した。有害性の評価や禁煙治療での留意点に関する演者の発言を中心に取り上げる。
加熱式たばこの販促資材では、しばしば「有害物質の量が紙巻たばこより90%少ない」などと謳われている。その科学的妥当性について、欅田尚樹氏(国立保健医療科学院)は、加熱式たばこから発生するエアロゾルに含まれるタバコ特異的ニトロソアミンや一酸化炭素(CO)などの濃度は「紙巻たばこより低減されている」と認めつつ、「ニコチンは半分から同程度含まれており、紙巻以上の濃度を示す有害物質もある」と説明した。
呼吸器内科専門医の瀬山邦明氏(順天堂大)は、加熱式たばこを約半年にわたり1日20本、その後2週間は1日40本吸い、急性好酸球性肺炎になった症例を紹介。「加熱式たばこでも、重度喫煙の場合は紙巻たばこと同様の症状が認められる」と述べた。
販促資材では「副流煙が出ない」点も強調される。これに関して、大和浩氏(産業医大)は、口腔から肺胞までの経路(解剖学的死腔)の空気150mLはそのまま呼出されるため「加熱式たばこでも本人が吸入したのと同じ濃度のエアロゾルで二次曝露が発生する」と断じた。さらに複数の実験映像を示しつつ、呼出されたエアロゾルは2m以上届き、室内汚染も生じることを提示。「加熱式たばこに切り替えたことで、家庭内で吸い始める事例が増えている。気管支喘息やシックハウス症候群の増加が懸念される」と述べ、紙巻たばこと共に屋内での使用を禁止すべきと訴えた。
英国では、紙巻たばこから電子たばこへの切替えが禁煙治療の選択肢として示されている。加熱式たばこの禁煙効果はどのように評価されているのか。
欅田氏は「疫学的には現時点で禁煙効果は不明」と強調。田淵貴大氏(大阪国際がんセンター)は、「IQOS」使用者の約7割が紙巻たばこと併用していたとの使用実態調査の結果を紹介した。中村正和氏(地域医療振興協会)は、加熱式たばこ使用者へのグループインタビューを基に「禁煙に対するモチベーションは低く、紙巻たばこの代用品感覚での使用が目立つ」と述べ、禁煙につながる可能性は低いとの見方を示した。
禁煙治療において医師が注意すべき点も指摘された。加熱式たばこ使用者の呼気からCOは検出されない。大和氏は「いきなりCOが急激に下がった患者がいたら、禁煙したか、加熱式たばこに切り替えたかのどちらかだ」とし、問診では、加熱式たばこ使用の有無を紙巻たばことは別に尋ねることを推奨した。
田淵氏は、禁煙目的での使用者が多くない点は認めつつ、「『周囲の害を減らそう』という思いで使う人もいる。頭ごなしに『加熱式もだめだ』と叱るだけでは、“心遣い”まで否定してしまい反発を招く」とし、使用目的に着目しながら禁煙の糸口を探るべきと述べた。
欧米ではニコチン入り電子たばこが普及しており、加熱式たばこの人気は高くない。日本における加熱式たばこ流行について、望月友美子氏(日本対がん協会)は、ニコチン入り電子たばこが法的に規制されているという要因以外に、カートリッジなど付属品の種類が豊富で「おしゃれ感覚で楽しめる」点を指摘。付属品には、たばこ事業法も景品表示法も規制が及ばないことを問題視した。