(東京都 F)
水痘ワクチンは2016年に帯状疱疹の予防にも適応が認められました。わが国では治験は行われていませんが,米国で行った研究においてほぼ同じワクチンの投与を行ったところ,5年間の追跡で帯状疱疹の発症は約半分,帯状疱疹後神経痛の発症は約1/3に抑制された,という予防効果が確認されています。
帯状疱疹の予防に関してはわが国では50歳以上の成人が対象となりましたが,質問者のお考えの通り,この患者については2年前に帯状疱疹にかかっていて,いまだに最も強い免疫がある,すなわち帯状疱疹はきわめて発症しにくい状態と考えられます。したがって,今の時点でワクチンを接種しても,さらなる予防効果の上積みはわずかしかないと思われます。65歳以上のわが国の一般人口の帯状疱疹の発症率は1/100人・年です。また,帯状疱疹を一生に2回発症する者は1~数%と,多くはないと考えられています。この患者に予防接種をするとすれば,やはり前回の帯状疱疹から5年は経ってからが,より意味を持つと考えます。なお,帯状疱疹の既往のある患者への水痘ワクチン接種の安全性は確認されています。
ただし,2つの点で確認が必要です。1つは,よく経験しますが「1回目の帯状疱疹が,本当に帯状疱疹であったか」という点です。質問者ご自身が診断されている場合は問題ありませんが,問診で患者が述べた場合に必ずしも最初の診断が正しくない場合があります。帯状疱疹と間違われやすい疾患は少なくなく,神経痛や虫刺症,膿痂疹,接触皮膚炎,単純ヘルペスなどがよく間違って「帯状疱疹」と診断されています。
帯状疱疹の既往は,直後~1年程度であれば,抗体価が上昇していることでわかります。しかし,帯状疱疹後2年となると,既に抗体価が低値の可能性があります(抗VZV補体結合反応で陰性~4倍,抗VZV-IgGで<80程度まで)。もしも,まだ抗体価が高いようであれば,確かに近年の既往があると言えるでしょう。
もう1つ確認が必要なのは,免疫抑制の有無です。たとえば「関節リウマチで治療を受けている」「がんの治療を受けている」など免疫抑制状態になると,帯状疱疹は発症率が高くなります。そのような患者は生ワクチンである水痘ワクチンは逆に使えません。今後,帯状疱疹の成分ワクチンがわが国でも認可される予定ですので,それを待つほうがよいでしょう。
【回答者】
今福信一 福岡大学医学部皮膚科学教室教授