嚥下機能が低下している,あるいは嚥下機能障害がある高齢者への「包括的で多面的な食支援」は,誤嚥性肺炎を予防する方法のひとつである
「包括的で多面的な食支援」を実現するためのツールがKTバランスチャートである
KTバランスチャートを用いた食支援は,摂食嚥下機能的視点のほかに,医学的視点,姿勢・活動的視点,食物形態・栄養的視点で多面的かつ相補的に構成される
KTバランスチャートは特殊なトレーニングや資格が必要なツールではなく,医療職以外でも汎用可能で,あらゆるセッティングで活用できる
誤嚥性肺炎の予防で重要なのは,ワクチンや薬物療法だけでなく,栄養状態と身体活動量の確保,そして口腔衛生の保持である
嚥下機能が低下している,あるいは嚥下機能障害がある高齢者への食支援は,誤嚥性肺炎を予防する方法のひとつである。2015年と16年に相次いでKoyamaらが発表した論文1)2)では,高齢者肺炎への入院後早期の食支援開始が,入院期間短縮と経口摂取率向上効果を示した。また,多職種による評価や介入が,入院期間短縮と経口摂取退院の実現に寄与することを示した。食支援の確立には,対象者の観察や食支援の実践から得たアセスメントと,それをもとにした支援方法の検討や改善が必要である。
多職種連携やチーム医療という言葉が生まれて,まだ20年程度しか経っていない。したがって,すべての病院や介護施設,在宅で多職種によるチーム医療が実現できるわけではない。小山が中心となり15年に開発・導入した「口から食べる(Kuchikara-Taberu)バランスチャート(以下,KTバランスチャート)」3)は,チーム医療の有無にかかわらず適切で安全な食支援を実現するツールとして活用できる。
「包括的」「多面的」という単語はよく使用されるが,実臨床ではあいまいで抽象的な言葉である。食支援の対象者を生活者としてとらえると,摂食嚥下障害や栄養障害などは対象者が抱える問題点の一部にすぎず,実際にはそれ以外の多くの課題に目を配る必要がある。誤嚥性肺炎の予防には,多くの要素(多面的)に目を向け,ぬかりなく(包括的)対応する必要がある4)。具体的な「包括的で多面的な食支援」を実現するためのツールがKTバランスチャートである。
KTバランスチャートを用いた食支援は,摂食嚥下機能的視点のほかに,医学的視点,姿勢・活動的視点,食物形態・栄養的視点で多面的に構成される(図1)。そして,それぞれの視点をさらに細分化して構成した13項目で評価する〔KTバランスチャート評価基準一覧 (http://www.igaku-shoin.co.jp/prd/03224/)よりダウンロード可能〕。13項目を1~5点でスコア化し,レーダーチャートを作成(最低点1点,最高点5点)すると,低スコア項目は予防やケアの充実を図るべき側面として,高スコア項目は維持や強化すべき側面として可視化できる。さらに,経時的変化をレーダーチャートで把握できるので,介入効果や課題が明確になる。
チーム医療では対象者の低スコア項目と高スコア項目を多職種で共有し,どの職種がどのような介入をすべきかを判断する。チーム医療が展開できない場面では,低スコア項目を改善するために,どの職種につなげるべきか,誰に相談すべきか,自分が何をすべきか,を判断する。このように客観的に対象者の全体像を把握し,適切な介入方法や連携を構築できる。