トキソプラズマはTORCH症候群のひとつで,胎児感染(先天性感染)を起こすと,胎児・新生児期より水頭症,脳内石灰化,小頭症,網脈絡膜炎,小眼球症,精神神経・運動障害,肝脾腫などを起こす。遅発型として,成人までに痙攣,網脈絡膜炎,精神神経・運動障害などを起こすことがある。わが国の妊婦のトキソプラズマ抗体保有率は2~10%である。先天性トキソプラズマ感染の頻度は,妊婦スクリーニングと治療を行った状況下で,1万分娩当たり1.26人と推計されている1)。
妊婦スクリーニングの有用性を前向き研究によって調べた。2005~16年に受診したトキソプラズマIgG陽性,IgM陽性の妊婦を対象にトキソプラズマIgG avidity index(AI)を測定した。AI低値の妊婦と希望者は,アセチルスピラマイシン®内服による母体治療を行った。対象400人のうち,AI低値(<30%,初感染)は90人,中間域29人で,高値(>35%,非初感染)は281人であった。結果,新生児7人(2%)が先天性感染と診断され,7人とも母体AIは低値であった。1人は頭蓋内石灰化のため1年間治療した。中絶となった1人を除く生存児6人は,現在(1歳2カ月~11歳)まで後遺症を認めていない。
先天性感染児はAI低値母体から出生した。ハイリスク母体の治療および出生児の精査と治療を適切に行ったため,感染児に大きな後遺症がなかったと考える。トキソプラズマの妊婦スクリーニングは,先天性感染児の発生を抑制し,後遺症を軽減するため有用と考える。
【文献】
1) Yamada H, et al:J Clin Microbiol. 2011;49(7): 2552-6.
【解説】
山田秀人 神戸大学産科婦人科教授