●ロコモの予防・改善には,運動器疾患の予防・治療に加えて,運動・栄養支援を組み合わせることが重要である。
●フレイルの予防・改善には,運動・栄養支援に,心理・社会的支援を組み合わせた包括的プログラムが効果的である。
●地域におけるフレイル・ロコモ予防策として,多様な通いの場づくりとともに,既存の通いの場のフレイル・ロコモ予防機能の強化を図ることが重要である。
ロコモの主要因として,加齢や生活習慣による運動器の機能(筋力,バランス能力,柔軟性,関節可動域等)の低下,運動器疾患(骨粗鬆症,骨折,変形性関節症,変形性脊椎症,神経障害,脊柱管狭窄症,サルコペニア等),そしてこれらによる痛み,痺れ,麻痺等が考えられている。肥満による関節への負担増もロコモの原因となる。これらに対処するには,運動器疾患の予防・治療に加えて,複合的(レジスタンス,バランス,柔軟性)運動とたんぱく質やカルシウム,ビタミンDの摂取等を中心とした栄養支援を組み合わせる必要がある。
フレイルの重要なリスク因子は,加齢以外では低体力(特に筋力,歩行能力),低栄養,低口腔機能,社会との関わりが薄いことに集約される。加えて,喫煙や高血圧,糖尿病,抑うつなども独立したリスク因子となる。フレイルは多面的である(身体的,精神・心理的,社会的側面を有する)ため,予防や改善を図るには,ロコモと同様の運動・栄養支援に,心理・社会的支援を組み合わせた複合型のプログラムが望ましい。
ロコモに対する包括的プログラムの効果に関するエビデンスはいまだ十分ではない1)。しかし,ロコモの中核をなすサルコペニアに対しては,既に多くの研究結果が蓄積されている。サルコペニア高齢者に対するランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビュー,メタアナリシスでは,レジスタンス運動のみのプログラムを実施した場合,体力指標は有意に改善したものの,四肢の除脂肪軟組織量には有意な改善がみられなかったことが報告されている2)。一方,サルコペニアを有する75歳以上の日本人女性155人を対象とした3カ月間のRCTでは,週2回のレジスタンス運動と毎日のロイシン高配合アミノ酸(6g/日)摂取を併用した群において,筋肉量,筋力,歩行速度のいずれも有意に向上したことが報告されている(図1)3)。同様に,サルコペニア肥満を有する70歳以上の日本人女性307人を対象とした3カ月間のRCTにおいても,週2回の運動(レジスタンス運動と有酸素運動)と毎日のサプリメント(ロイシン高配合アミノ酸とビタミンD)摂取を併用した群において,有意に体脂肪量が減少し,筋力および歩行速度が向上している4)。
このように,サルコペニア高齢者に限定した場合,レジスタンス運動とたんぱく質補給を併用することで,体力指標だけでなく,除脂肪量や四肢の除脂肪軟組織量が有意に向上することがメタアナリシスによって明示されている5)。ただし,四肢の除脂肪軟組織量に有意な向上がみられるまでには,少なくとも3カ月以上の期間を要することが示唆されている5)。
フレイルの予防・改善についても,運動プログラムのみ,あるいは栄養プログラムのみの単一的なプログラムよりも,複数要素による包括的プログラムのほうが,フレイルの予防・改善に効果的であることが示されている6)。
日本人高齢者77人(前期介入群38人,後期介入群39人)を対象とした6カ月間のランダム化クロスオーバー比較試験では,レジスタンス運動,栄養教育,社会参加プログラムからなる包括的プログラムが,フレイルおよび機能的健康度に及ぼす効果を検証している7)。毎回60分のレジスタンス運動プログラムと,その後10分の休憩をはさんで,30分の栄養または社会参加プログラム(1回あたり合計100分)が週2回,3カ月間実施された。その結果,後期介入群と比較して,前期介入群では3カ月後にフレイル該当率が23.4%ポイント有意に低減し,身体面では移動能力の指標であるTimed Up&Goテストが,心理・社会面では抑うつ尺度が,栄養面では食品摂取多様性得点が,それぞれ有意に改善した。また,その効果は終了3カ月後(6カ月時)も維持されており,後期介入群でも同様の効果が確認されている(図2)7)。
このようなプログラム要素を地域展開するには,有効性とともに実行可能性の高い戦略が必要となる。兵庫県養父市では,「高齢になっても歩いて通えるような身近な場所(行政区ごと)に,誰もが継続して参加できるフレイル予防教室(通いの場)を開設する」という目標を掲げ,2014年からその取り組みを継続している8)。最大の特長は,「シルバー人材センター内に健康づくり部門が創設され,研修を受けたシルバー人材センター会員(高齢者)が仕事として対価を得ながら市内の各地区に出張し,フレイル予防教室を運営する」という仕組みである。これによって教室の担い手がいないという課題を解決するだけでなく,担い手(会員),参加者(地域住民)の双方に生きがいと健康利益をもたらし,さらに地域のソーシャル・キャピタル醸成にもつながるという“三方よし”の仕組みが実現されている。
会員の研修には,前述したフレイル予防プログラム7)を養父市の高齢者が担い手として運営できるようアレンジされたテキストが用いられている。会員が運営する教室の参加者では,非参加者に比べて,3年後のフレイル発生のリスクが35%8),5年間の要介護化リスクが47%9)有意に低かった(図3)。なお,この事例では,シルバー人材センター会員が一定期間教室を運営した後は,すべての地区が住民による自主運営化に成功したことも報告されている8)。
健康行動の組み合わせは,その後のフレイル発生10)や要介護化11)のリスクをより大きく低減する。高齢者7,822人を3.6年間追跡した研究では,3つの健康行動(週150分以上の中高強度身体活動,多様な食品摂取,週1回以上の対面/非対面交流)を,いずれも充足していない群と比較して,いずれか2つ充足している群で35%,3つすべて充足している群で46%,要介護化リスクが有意に低かった(図4) 11)。また,高齢者全員(3つすべての健康行動を既に実践している者を除く)が3つすべての健康行動を充足した場合,その集団における3.6年間の要介護化(集団寄与危険割合)は16%減少することが示唆された。
これをふまえれば,通いの場をはじめとする社会環境にフレイル・ロコモ予防に資する内容を“ちょい足し”し,フレイル・ロコモ予防の機能強化を図るという戦略も有用と考えられる。東京都健康長寿医療センターでは,フレイル予防のプログラム要素を通いの場などの自主グループ活動に無理なく付加する“ちょい足し”プログラムを「フレイル予防スタートブック」としてまとめている12)。このスタートブックには,5~10分程度で実践できるレジスタンス運動,交流促進のためのレクリエーション,食品摂取チェック表の活用方法,口腔プログラム等が説明セリフ付きで掲載されている。東京都では,これらを各通いの場の世話役・参加者に伝えることで,通いの場の予防機能の強化を図る取り組みが進められている。
文 献
1) Iwamoto Y, et al:Nagoya J Med Sci. 2023;85(2):275-88.
2) Bao W, et al:Aging Dis. 2020;11(4):863-73.
3) Kim HK, et al:J Am Geriatr Soc. 2012;60(1):16-23.
4) Kim H, et al:J Am Med Dir Assoc. 2016;17(11):1011-9.
5) Liao CD, et al:Nutrients. 2019;11(8):1713.
6) Macdonald SH, et al:PLoS One. 2020;15(2):e0228821.
7) Seino S, et al:Geriatr Gerontol Int. 2017;17(11):2034-45.
8) 野藤 悠, 他:日公衛誌. 2019;66(9):560-73.
9) Nofuji Y, et al:Prev Med. 2023;169:107449.
10) Lyu W, et al:Arch Gerontol Geriatr. 2022;102, 104734.
11) Seino S, et al:J Epidemiol. 2023;33(7):350-9.
12) 東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム:地域で取り組む! フレイル予防スタートブック. [https://www.healthy-aging.tokyo/startbook](2024年7月閲覧)