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【識者の眼】「総合診療専門医をめぐる違和感」草場鉄周

No.5006 (2020年04月04日発行) P.63

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2020-04-03

最終更新日: 2020-03-31

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北海道で総合診療を実践し、総合診療を目指す若手医師の養成に関わり20年が過ぎた。当時と比べると、メディアで取り扱われる頻度も増え、国や地方自治体はもちろん、様々な組織からも総合診療を推進し総合診療専門医を増やすべきとの声も大きくなり、まさに隔世の感がある。本当にありがたい。

しかし、実際に総合診療専門医を目指して専門研修を希望する専攻医の数は、200人前後にとどまり、同学年の専攻医9000人強の中では約2%に過ぎない。現在、日本プライマリ・ケア連合学会に所属してプライマリ・ケア認定医あるいは家庭医療専門医の資格を持ち、様々な場で総合診療を実践する会員数がおよそ6400人で、全医師数(約32万人)から考えると2%となるが、この割合と変わらないという厳しい結果が続いている。つまり、新たな専門医制度を構築したことで、総合診療を目指す医師を増やすことにはつながっていないという事実がここにある。

なぜ、こうなったのだろうか?考えられる理由は大小たくさんあり、一つ一つの課題に対する改善策は日本専門医機構の総合診療専門医検討委員会で真摯に議論をしているが、ここでは最も重要な一つの視点を提起したい。

そもそも、総合診療専門医の位置づけが、18の既存の基本領域専門医と異なる新たな専門性や学術的基盤を持つ医師を日本に新たに導入するのだという理念から、高齢者増加に伴う在宅医療や地域包括ケアの充実、さらには都市と郡部の医療格差の解決など、当面の日本の医療課題を解決するための医師を増やすのだという理念に、いつの間にかすり変わってしまったことが決定的であった。

もちろん地域や現場のニーズがあってこその医師・医療であり、日本の国民の健康に寄与することを何ら否定するつもりはないが、こうした課題解決の目的が専門医養成の大きな旗印になると、卒後1〜2年目の医師からは「なぜ、私たちだけがこうした課題を解決する労働力にならなければいけないの?」という当然の疑問が生まれる。「中途半端な教育で医師不足地域で使い捨てられるような医師ではなく、若いうちはきちんと自分の専門能力を身に付けるべきだ」と他科の指導医からささやかれたら、多くの若い医師は引き寄せられるだろう。

本来、他の専門領域の持つ専門性や魅力よりも、総合診療の専門性や学術性に対して積極的に魅力を感じて選択することが基本であるべきで、そうした情報をいかに多くの医学生や研修医に伝えていくか、そして、そうした専門性を身に付けるための研修の質をどう高めていくかが最重要課題であるはずだ。その結果として、総合診療専門医を選んだ医師が日本の医療の様々な課題の解決に貢献することが望ましい姿である。当面の日本の医療課題は、総合診療専門医だけでなく、現場で既に活躍する診療所・病院の全ての医師で取り組むべきこととして、分けてしっかり検討すべきであろう。

この連載では、こうした本質的課題にどう向き合い、総合診療専門医のあり方をどう見直すべきか、検討を深めていきたいと思う。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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