職域のメンタルヘルスに携わる関係者の間で,発達障害が注目されている
職場で生じている問題は様々であり,必要な対応は事例ごとに異なる
事業者は障害特性に応じた合理的配慮をすることが必要である
職域のメンタルヘルスに携わる関係者の間で発達障害が注目されている。本稿では,一般雇用(他の労働者と同様に,競争的労働市場で採用された)労働者の自閉症スペクトラム障害を中心に,職域で生じている問題とその対応を解説する。
職域で遭遇する代表的な事例は,学生時代は大きなトラブルなく過ごし,一般採用の試験をパスし就職した労働者が,仕事に適応できずにうつ病に罹患し,治療経過の中で,仕事に適応できなかった本人の背景に発達障害という診断がついたり,産業医が疑ったりするというものである。十数年前は発達障害という診断がつくことはまずなかったが,最近はこのような事例はめずらしくなく,産業保健を専門とする医師を対象に2014年に実施した質問紙調査では,回答者の62%は自閉症スペクトラム障害の診断を受けた労働者の事例対応の経験があり,82%は疑い例としての対応経験があるという結果であった。
背景として,診断概念の変化に加え,労働者に求められる仕事の質・量の変化があると考えられる。後者を具体的に述べると,「定型的な仕事が少なくなり,状況に応じた対処が求められる仕事やコミュニケーション能力を要する仕事が多くなった」「処理すべき情報量が増えた」「業務を最小限の人数で回すことが求められるようになった」などの職場の変化とそれに伴い職場全体の余裕がなくなったことなどが挙げられる。