硬膜外腔へのステロイド注入は,椎間板ヘルニア,脊椎症,脊柱管狭窄症,脊椎術後疼痛症候群による難治性疼痛患者の治療に一般的に行われている。ステロイド注入は,痛みの原因となっている神経根近傍へステロイドを到達させることにより治療効果を発揮するが,硬膜外腔や神経根周囲の線維化により硬膜外腔の解剖学的狭窄が起こり,ステロイドを目的とする神経根へ到達させることが困難な症例が存在する。そのため,硬膜外腔へのステロイド注入の治療成績は18~90%と様々な報告がなされている。
硬膜外腔癒着剝離神経形成術はRaczスプリングカテーテルという特殊なカテーテルを用いて行われる手技であり,痛みの原因となっている神経根周囲へカテーテル先端を進めて,数種類の薬液を使用して神経根周囲の癒着を剝離し,障害を受けた神経根を治療する方法である。硬膜外腔癒着剝離神経形成術によって,造影剤を用いて硬膜外腔の状態を視認すること,神経根周囲の癒着部位を溶解・剝離すること,癒着・瘢痕から放出される有害物質を除去すること,治療目的とする神経根へ確実にステロイドなどの治療薬を到達させること,が可能となり,難治性疼痛患者の治療に効果があることが報告されている。
近年は,Raczカテーテルを用いた硬膜外腔癒着剝離神経形成術による治療例が国内からも報告されている。2018年4月より硬膜外腔癒着剝離術が新たに保険適用となり,今後の発展が期待される。
【解説】
澤田敦史 札幌医科大学麻酔科