胎児疾患に対する外科的治療は,妊娠経過に影響を及ぼすとともに治療行為を受ける母体にも少なからず侵襲が及ぶ。したがって,出生後の治療で良好な予後が得られる疾患は適応とならず,胎児外科的治療対象となる疾患は限られている1)。胎児胸水に対する胸腔・羊水腔シャント術は過去も現在も変わらず行われている。双胎間輸血症候群,無心体双胎,先天性横隔膜ヘルニアに対する治療は外科的治療法の変遷がある。
双胎間輸血症候群は一絨毛膜双胎において,双胎間の血流不均衡によって一児の羊水過少ともう一児の羊水過多をきたす予後不良な疾患である。治療法としては羊水過多の児の羊水吸引術や両児間の羊膜を穿破する羊膜穿破術が行われていた。
無心体双胎は一絨毛膜双胎の稀な奇形で,心臓や頭部が欠損する無心体と正常胎児が共存する双胎である。子宮を切開して無心体のみを娩出して正常胎児の妊娠を継続する選択的娩出術が行われていた。また,コイルや硬化物質を無心体の臍帯血管に注入する方法も行われていた。
先天性横隔膜ヘルニアは,先天的な横隔膜の欠損により腹腔臓器が胸腔内へ脱出し,肺の発育が阻害されて呼吸・循環障害をきたす重篤な疾患である。子宮を切開して胎児に直接横隔膜修復術を施す直視下胎児手術法が行われてきた。しかし,肝臓を腹腔内に還納した際に臍静脈還流が阻害されて胎児死亡に至った例があり,胎児の横隔膜修復術は行われなくなった。その後は気管を閉塞して肺胞分泌液の排出を阻害すると肺の発育が促進されることを利用して,直視下で胎児の気管を露出して金属クリップで閉塞する気管閉塞術が行われていた。