手術支援ロボットda VinciⓇは,その操作性の良さと非常に良好な手術視野から,種々の手術,特に骨盤内の手術にきわめて有用で,前立腺癌の手術療法に革新的な変化をもたらした。導入当初は比較的限られた施設での施行であったが,腹腔鏡下手術と比較しても明らかに習得が容易であり,わが国では2012年に保険適用となったのを機に急速に普及し,同装置を導入している施設のほとんどでは,90%以上はロボット補助下手術となっている。
従前の開放手術や腹腔鏡下手術との比較でも,ロボット補助下手術が劣っている結果は得られていない。筆者自身,臨床現場では,出血量の大幅な減少が可能で,緻密な膀胱尿道吻合が行えることから,吻合部の狭窄などの術後合併症が著しく減少したと感じている。また,高リスク症例に対する,拡大リンパ節郭清も行える。機械自体とランニングコストがきわめて高価であるので,残る問題は費用であろう。
前立腺癌にまつわるもう1つのトピックは,少数で小さな転移巣を有する症例(oligometastasis)での手術の施行であろう。どのがん種でも共通する問題であるが,同じ有転移症例であっても,多臓器転移から,臨床的に単発の転移まで様々である。転移を有しても一般的に進行が緩徐である前立腺癌では,その転移巣の治療とともに前立腺摘除をしたほうがより良いQOLと予後が得られるのではないかと考えられ,検討が進んでいる。エビデンスレベルは高くないものの,この考えを支持する知見が集まりつつある。
【解説】
冨田善彦 新潟大学泌尿器科教授