急性膀胱炎は,尿道から逆行性に細菌が尿路(膀胱)に侵入して生じる急性の炎症である。単純性と複雑性に分類されるが,尿路の解剖学的または機能的異常のない,あるいは全身の免疫機能を低下させるような併存症がないものを単純性膀胱炎としている。疫学的には性的活動期(20~40歳代)にある女性に多い。
終末時排尿痛,残尿感,頻尿,尿混濁が特徴的で,血尿を伴うこともある。検尿での膿尿の確認で確定できる。
発熱を伴うことはない。発熱を伴う場合は尿路実質臓器の感染を疑う。
抗菌薬による加療が主体で,いかに適切な抗菌薬を選択するかが鍵となる。特に初療時は見込みでの投薬になるが,閉経前後での原因菌の疫学的分布が異なることを意識して薬剤選択をする。閉経前はグラム陽性球菌(GPC)の分離率が高いのでキノロン系を基本とする。ただ昨今は,閉経前でもキノロン耐性大腸菌の分離頻度が上昇しつつあり,βラクタマーゼ阻害薬(BSI)配合ペニシリン系薬も考慮に入れる。閉経後はグラム陰性桿菌(GNR) の分離率が高いのでセフェム系を基本とするが,ESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生株の分離率の上昇も認められ,BSI配合ペニシリン系薬も考慮に入れる。また,初期治療が不首尾に終わった際の二次治療薬を考慮するために,必ず投薬前に尿培養および薬剤感受性試験を実施する。
初期治療に用いた薬剤に感受性があるにもかかわらず改善しない場合は,残尿の存在や尿路結石,尿路腫瘍などの併存疾患の存在の有無を検索する。何らかの併存症が存在すれば複雑性尿路感染症の診断となり,膀胱炎症状への対症療法を実施しながら,原疾患の加療が必要になる。
その他の留意点としては,妊婦と高齢者でよくみられる下剤の服用患者である。妊婦におけるキノロン系の使用は禁忌であるのでセフェム系を選択する。また,下剤であるが,マグネシウムやアルミニウム製剤が含まれていると,キノロン系薬は腸管からの吸収が抑制されるため,キノロン系薬を使用する際は下剤の一時休薬か,あるいはセフェム系の使用を検討する。
膿尿が改善したにもかかわらず膀胱炎症状を訴える場合は,むやみに抗菌薬の追加投与をせずに,対症療法と下腹部保温といった行動療法を指導する。
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