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応召義務の遂行者は個人・病医院・診療科のいずれか?【医師が患者に対して直接負う義務ではなく,国に対して負う公法上の義務と解される】

No.4916 (2018年07月14日発行) P.61

田邉 昇 (中村・平井・田邉法律事務所 弁護士)

登録日: 2018-07-11

最終更新日: 2018-11-28

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最近ある大学病院で,特定の医師を指名して診療を要請したところ,「応じられない」と対応されたことで,「応召義務違反だ」と強く抗議した患者がいました。
応召義務は病院もしくは診療科単位で応じれば問題はない,という判例や解釈はないのでしょうか。

(千葉県 Y)


【回答】

ご質問のケースは,東京地方裁判所平成27年9月28日判決(判例秘書搭載)と思われます。

8年以上通院していた大学病院精神神経科の医師に対して,患者が不満を述べ,他医の診察を受けたり,大学病院の医療相談員の同席での診療を求めたりしたことから担当医師との信頼関係が崩れ,担当医師から,患者に他院宛の紹介状を作成・交付する一方,患者の入れた診療予約を他の医師に振り替えることもなく取り消し,診療科でも対応しないような申し合わせをした事案です。

裁判所はこれを診療拒否と認定し,その一方で,患者が担当医師に不平不満を述べ,医療相談員を診療に立ち会わせようとしたことを,「原告に対する適切な診療行為を行うことが困難であると判断したとしてもやむをえない状況にあったことが認められる」「そうである以上,被告病院において,やむをえない措置としてされた本件診療拒絶には正当な事由がある」として患者側からの損害賠償請求を認めていません。

そもそも医師法第19条の応召義務は,患者に対して医師が直接負う義務ではなく,国に対して負う公法上の義務と解されており,診療を医師が拒否したからといって,直ちに患者への損害賠償義務が生ずるものではありません(東京地裁平成17年11月15日判決 判例秘書搭載)。同裁判例は「医師法第19条1項の定めるいわゆる医師の応召義務は,本来国に対して負うものであって,仮に被告に同条項に違反する診療拒否行為があったとしても,ただちに私法上の不法行為を構成するものではなく,この行為が社会通念上許容される範囲を超えて私法上も違法と認められ,これによって原告の何らかの権利又は法律上保護される利益が侵害された場合に初めて不法行為の成立を認める余地があると解するのが相当である」としています。

したがって,病院もしくは診療科で対応できていれば,仮に特定の医師において診療拒否をしても,「正当事由」が認められると思われますが,応召義務違反を否定した裁判例のほとんどは,緊急性がなく信頼関係が破壊されている事案であり,救急受け入れに対する病院としての拒否と評価された事案(神戸地裁平成4年6月30日判決 判例タイムズ802号196頁)などは賠償を認めています。

【回答者】

田邉 昇 中村・平井・田邉法律事務所 弁護士

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