【医師国保を外れ後期高齢者被保険者となった場合,後者も医療保険制度に含まれるため,医師が自身を診察し治療することは「自己診療」に該当し,保険診療は認められない】
まず, 「自己診療」と関連する言葉として「自家診療」があるので,これらの言葉の意味を明らかにしておきます。
「自己診療」とは,医師が自身に対して診察し治療を行うことを言い,「自家診療」とは医師が医師の家族や従業員に対して診察し治療を行うことを言います。
「自己診療」は,現行の医療保険制度が被保険者等の患者(他人)に対して診療を行う場合についての規定であるとされていることから,自己診療を保険診療として行うことは認められていません。これに対して「自家診療」は,保険診療を認めるかどうかは加入する医療保険制度の保険者によって取り扱いが異なります1)。
本質問は,保険医自身が後期高齢者となったため,それまで加入していた医師国民健康保険組合(以下,医師国保)から後期高齢者医療制度に移行したので自己診療が可能となったのではないか,というものと推察されます。なぜなら,自家診療は保険医とその家族または従業員の関係であるため,保険医自身の加入対象が変わったとしても当該関係に何ら影響しないからです。
そこで,以下「自己診療」として回答します。
質問の要点は,質問者である医師の加入する団体が医師国保から後期高齢者医療制度に移行したことにより,自己診療が可能になるか否かという点にあります。
当該医師が自己診療を行った場合は,①保険医である医師が,②後期高齢者である医師自身に対して診察を行ったことになります。
前記の通り,自己診療が認められない理由は,医療保険制度が被保険者である患者(他人)に対して診察を行う場合についての規定であるというところにあります。そうすると当該医師が加入する後期高齢者医療制度が,医療保険制度に含まれるか否かが問題となります。
わが国は皆保険制度を採用しており,国民は原則として保険者の被保険者となり医療を受けることができます。保険者については,歴史的,政策的経緯等により複数に分かれています(図1)2)。後期高齢者医療制度は,都道府県ごとに各市区町村が加入する「後期高齢者医療広域連合」が保険者となります。ちなみに健康保険法第64条により保険医登録をした保険医は後期高齢者医療を担うとされており(高齢者の医療の確保に関する法律第65条),また後期高齢者が「被保険者」と定められている(同法第50条)ことからも,後期高齢者医療制度が医療保険制度の一部であることが明らかです。
以上から,保険医である医師が,保険者である後期高齢者医療広域連合の被保険者である自身を診察し治療することは「自己診療」に該当し,保険診療は認められないことになります。
【文献】
1) 厚生労働省保険局医療課医療指導監査室:保険診療の理解のために【医科】(令和5年度). p72-3.
https://www.mhlw.go.jp/content/001113678.pdf
2) 厚生労働省:我が国の医療保険について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken 01/index.html
【回答者】
吉岡譲治 アンカー法律事務所弁護士