(京都府 K)
B型Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)は,心臓への壁応力に応じて分泌されるため,その血中濃度は慢性心不全患者における病状の変化(経過観察)や治療効果の判定に広く用いられています。
一般に,NT-proBNP値900pg/mL以下を慢性心不全治療の目標値に用いるのが妥当と考えられています。しかし,この目標値は腎機能障害,高齢や心房細動などの修飾因子により高値になり,肥満者では非肥満者に比べて低値になります。また,慢性心不全患者では臨床的にコントロールされた(良好な)状態であっても,NT-proBNP値が慢性的な心負荷により高値であることがあります。そのため,慢性心不全の病状の変化や治療効果の判定には,NT-proBNPの絶対値よりも過去の値との比較のほうが重要と考えられます。
さらに,NT-proBNP値は臨床的に安定した状態においても,日々変動しています。この生物学的変動は25~40%程度と報告されていますので,NT-proBNP値は1.5~2倍以上の数値変動がないと,有意な変動とは言えません。
したがって,実臨床では個々の症例ごとにNT-proBNP値に対する上記の修飾因子を考慮し,臨床症状や身体所見などの臨床的評価をもとに,NT-proBNP値の最適値を設定し,それを目標に慢性心不全の管理を行っていくことが必要と考えられます。
2013年に公開された日本心不全学会のBNPステイトメント1)では,「基本的に,BNPやNT-pro BNP値をある数値以下に維持しなければいけないという絶対的な目標値はありません。実臨床では個々の症例に最適なBNP値やNT-proBNP値を見つけて,その値を維持する包括的な疾病管理,つまり,生活習慣の是正(断煙,断酒,減塩,食事や運動の適正化など)と,適切な薬物治療が重要です。
また,心不全管理のBNPやNT-proBNP値は過去との比較が大切です。前回に比べて2倍以上に上昇した時には何か理由があります。その原因を探索し,早めの介入が必要でしょう。可能であれば薬剤を調整して心不全のコントロールを強化して下さい」と記載されています。
これらを総合すると,慢性心不全に対するNT-proBNP値の判断は,個々の症例ごとにNT-pro BNP値の修飾因子を考慮し,臨床症状や身体所見などの臨床的評価と併用して総合的に判断することが肝要と考えられます。
【文献】
1) 日本心不全学会:血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について.
[http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/bnp201300403.html]
【回答者】
石井潤一 藤田保健衛生大学医学部臨床検査科教授