(大阪府 W)
維持血液透析(hemodialysis: HD)により除去されやすい薬剤は,基本的に腎排泄型薬剤と考えて差し障りありません。そのため,一般に腎障害時に用量調節が必要となる薬剤ではHD導入患者に対する投与量に注意が必要です。代表的な例は抗菌薬で,薬物によってはHDにより血中濃度が50%以上も低下することがあるため,HD後の補充投与が必要です。一方で肝代謝型,言い換えれば腎障害時に用量調節が必要ない薬剤では,HDによる薬物動態変化は基本的に無視できる程度であるため,血中濃度の低下や効果減弱は考えなくてよいでしょう。
ご質問にあるACEIは,薬剤によって程度の差はあるものの,体内からの消失に腎排泄が関与しています。そのため,ある程度はHDにより除去されることが知られており,特にリシノプリルではHDによる除去率が約50%と大きいことが知られています。一方,同じくレニン・アンジオテンシン系阻害薬(renin angiotensin system inhibitor:RASI)に分類されるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(angiotensin Ⅱ receptor blocker:ARB)の多くは胆汁排泄の寄与が大きく,HDではほとんど除去されません。その意味では,ACEIよりもARBのほうがHD導入患者には投与しやすいと言えます。
しかし,通常ACEIはHD日に服用する場合はHD後に服用しますので,HDによりACEIの濃度が低下してもすぐに補充され,降圧効果への影響は限定的です。したがって,通常はHD導入患者であってもACEIによる治療継続が可能と考えられます。ただし,HD導入後に血圧上昇が認められる症例では,HDによるACEIの除去が原因となっている可能性はあり,一般に透析性が小さいARBへの変更も選択肢にはなると考えられます1)。
しかし,ACEIとARBはともにRASIに分類されるものの,臓器保護や生命予後に対する効果に差があることが知られており2),臓器保護作用についてはACEIのほうが優れているとする報告も多いようです。そのため,実際に変更するか否かは,薬物動態的な観点に加えて,長期予後に対する効果も含めた慎重な検討が必要です。
【文献】
1) Inrig JK:Semin Dial. 2010;23(3):290-7.
2) Wu HY, et al:BMJ. 2013;347:f6008.
【回答者】
山本武人 東京大学大学院薬学系研究科医療薬学教育センター講師