No.4922 (2018年08月25日発行) P.33
徳嶺譲芳 (杏林大学医学部麻酔科学教室教授)
五十嵐 寛 (浜松医科大学臨床医学教育学講座特任教授)
登録日: 2018-08-27
最終更新日: 2018-08-22
内頸静脈穿刺は最も危険な穿刺部位である
中心静脈穿刺では安全を最優先すべきである
中心静脈穿刺では,常に患者の視点から適否を考えるべきである
中心静脈穿刺に関する教科書の記載には,致命的な間違いが多い
中心静脈穿刺の医療事故が起こるのはなぜだろう。読者は,そう考えたことはないだろうか?著者は,中心静脈穿刺の医療事故のほとんどは,教育が原因であると考えている。
まず,中心静脈穿刺で現在最もよく行われている内頸静脈穿刺について考えてみよう。多くの人が鎖骨下静脈穿刺よりも内頸静脈穿刺が安全だと考えている。しかし本当にそうだろうか?中心静脈穿刺の歴史1)を振り返ってみよう。上肢からの挿入〔現在の末梢挿入型中心静脈カテーテル(peripherally inserted central catheter:PICC)の原型〕2)3)から始まった中心静脈穿刺は,次に大腿静脈穿刺4)5),そして鎖骨下静脈穿刺6)7),最後に内頸静脈穿刺8)9)が考案された。年代で言うとPICCは1929年,大腿静脈穿刺は1950年前後,鎖骨下静脈穿刺は1952年,内頸静脈穿刺は1969年である。内頸静脈穿刺は,鎖骨下静脈穿刺の考案後,なんと十数年経ってようやく考案された。なぜだろう?それは頸部の穿刺が最も危険だからである。解剖学の実習を思い出してもらいたい。首には血管だけでなく神経も多数走行している。実習でちまちまと頸部の構造物を出している間に,重要な神経や血管を思わず切ってしまったことはないだろうか?首には重要組織・臓器が密集している。その危険性のため,内頸静脈を刺そうとする医師がなかなか現れなかったというのが本当のところではないだろうか?