本学会では、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)に対する初めての、薬剤第Ⅲ相試験の結果が明らかにされた。トランスサイレチンに結合することで安定化させ、アミロイド形成を抑制すると考えられる化合物“タファミジス” を用いた、ATTR-ACT研究である。プラセボに比べ死亡、心血管系(CV)入院を減らすだけでなく、6分間歩行やQOLにも有意な改善が認められた。27日の「HOTLINEセッション3」にて、Claudio Rapezzi氏(ボローニャ大学、イタリア)が報告した。
同氏が報告に先立ち強調したのは、「ATTR-CMは決して希少疾患ではない」という点である。すなわち、拡張障害心不全(HFpEF)入院例の13%、経カテーテル的大動脈弁植え込み(TAVI)施行例の16%がATTR-CMだったとする報告があるという。
さて、ATTR-ACT研究の対象は、生検でアミロイドの存在が確認された心不全441例である。野生型、変異型は問わない。ただしNYHA分類IV度や「6分間歩行距離≦100m」の重症例は除外されている。
背景因子を見ると、平均年齢は75歳、9割が男性だった。男性における頻発が反映された結果だという。また左室駆出率平均値は48%、NYHA分類ではクラスⅡが6割を占めていた。
これら441例は、タファミジス20mg/日群、80mg/日群、プラセボ群のいずれかにランダム化され30カ月間、二重盲検法で追跡された。ランダム化にあたっては、遺伝子型とNYHA重症度でそれぞれ、層別化を行った。
また評価項目は、タファミジス20mg/日群と80mg/日群を併合して解析し、のちに用量により差があるか検討することにした。
その結果、30カ月の死亡率は、タファミジス群:29.5%、プラセボ群:42.9%となり、タファミジス群の方が、死亡リスクは有意に低かった(ハザード比 [HR] :0.70、95%信頼区間 [CI]:0.51-0.96)。興味深いのはカプラン・マイヤー曲線である。両群の曲線が乖離し始めたのは、試験開始から18カ月が経過してからだった。心不全例の血行動態や神経体液性因子に介入するよりも時間がかかる点に、Rapezzi氏は注意を促した。
CV入院のリスクも、タファミジス群で有意に低くなっていた(HR:0.68、95%CI:0.56-0.81)。また、QOLと6分間歩行距離も、タファミジス群でプラセボ群に比べ、低下は有意に抑制されていた。
一方、安全性に関する重大な懸念はまったく認められなかった。
タファミジスによる上記の有効性は、ATTR遺伝子型、タファミジス用量の高低に影響を受けていなかった。一方、NYHA分類別に検討すると、クラス「Ⅱ、Ⅲ」に比べクラス「I」の方が、タファミジスによる死亡抑制、CV入院抑制作用は大きかった。症状が進展していない、より早期の介入が効果的だとRapezzi氏は述べ、早期ATTR-CMを見逃さない重要性を改めて強調した。
ATTR-CMの簡易スクリーニングについては、指定討論者として登壇したJacob George氏(カプラン・メディカルセンター、イスラエル)が、「eGFR」と「NT-proBNP」のみでATTR-CMの予後増悪度を3つのステージに分け得るとする、Gillmoreらの新分類 [Gillmore JD, et al:Eur Heart J. 2018; 39 (30):2799] に言及し、今後、心機能低下の原因が不明の非虚血性心不全に出会ったら、一度ATTR-CMのスクリーニングをすべきだと主張した。
本研究は、Pfizer Inc.の資金提供を受けて行われた。また、報告された27日、N Engl J Med誌にオンライン掲載された。