(長野県 K)
【脱水型では脳梗塞,心筋梗塞発症のおそれがあり,高体温型では対処が遅れると多臓器不全に陥る】
熱中症の病態は,「熱」そのものによる障害と「脱水」による循環障害の2つに分類できます。
「熱」そのものによる障害では,高体温になり,より重症化することが多く,小脳のプルキンエ細胞への障害が知られています。高体温になる熱中症は海外ではheat stroke(深部体温40℃以上で神経症状あり)と分類されています1)。日本救急医学会が実施した熱中症疫学調査(Heatstroke STUDY)では積極的な冷却を行わなければ,転帰が悪化することが示されています。DIC(disseminated intravascular coagulation,播種性血管内凝固)などの多臓器不全を呈して,致死的な状態になり,生存例でも高次機能障害やADL(activities of daily living,日常生活動作)低下などの後遺症が残ることが多くあります。
その一方で,「脱水」による循環障害では,高体温に至りません。比較的軽症例が多く,海外ではheat syncope,heat cramps,heat exhaustionと分類されています。輸液療法と休憩で症状が改善することが一般的で,日本臨床救急医学会でも軽症の熱中症は補液と休憩で全例が回復した報告があります。ただし,脱水状態が塞栓症状を誘発して,脳梗塞や心筋梗塞の発症につながる危険があるので,注意が必要です。
高齢者は口渇を鋭敏に自覚することができず,「脱水」型の熱中症を呈することが多いので,日頃からの水分摂取励行で熱中症の発症を予防することが大切です。独居の方などで発見が遅れてしまうと,「高体温」型の熱中症になり,多臓器不全に至る可能性があります2)。
以上のように,熱中症の病態は大きく2つに分類されます。適切な予防や治療を行うには,この病態の把握に基づいたアプローチが大切です。
【文献】
1) Bouchama A, et al:N Engl J Med. 2002;346(25): 1978-88.
2) 神田 潤, 他:ICUとCCU. 2016;40(11):789-96.
【回答者】
神田 潤 帝京大学医学部附属病院救急科