(大阪府 K)
【法律上の説明義務はないが,同席することで得られるメリットがある】
リハビリテーション中に事故が起きた場合において,患者や家族に対し,説明する義務は,法律上,顚末報告義務(民法第645条,第656条),あるいは診療契約に付随する信義則上の義務によるものと考えられます。
その実質的な根拠は,医療機関が事故の経緯・原因を最もよく知る立場であり,患者側は説明がなければ把握することは通常困難であること(情報の偏在),経緯や原因を知りたいと願うのは,患者側の知る権利に資する点にあります。
このような説明義務を負担するのは,診療契約の主体である医療機関です。言い換えれば,本件において,実際に担当していた療法士が現に説明をしていなかったとしても,管理者等から適切に説明がなされれば,法的には医療機関としての義務は果たしていると考えられます。
一方で,担当者が患者・家族に対し,説明をしたとしても,法的に問題になることではありません。
医療機関として,誰が説明すべきかについては,説明義務の実質的根拠に照らし,患者・家族の納得を得るという目的や担当者への配慮など種々の事情を加味して判断することが重要です。
この点,事故原因や経過については,ある程度,客観的な視点での説明が必要です。そのため,担当者のみによる説明は,患者・家族からの感情論での反発をまねくおそれや,担当者自身の精神的な負担を生じさせるデメリットがあります。本件のように管理者等が,担当者から事実関係を調査し,客観的に報告をすることで,冷静な説明が果たされることが期待できます。
一方で,患者・家族の中には,担当者が同席したり,説明しないことに不満を持つ人も存在します。特に,説明をしている管理者が,家族らの質問に回答できない場合などに顕在化します。管理者がいかに調査したとしても,実際に経験していない事実を説明することは,限界があることを理解すべきです。
本件では,担当した療法士の事故後の状況や意向が不明ではありますが,自身での説明が可能な場合には,同席させることは,患者側の知る権利や情報の正確性確保という点でも良いことと考えられます。
ただし,同席させる場合にも,基本的な説明は,客観的に行うべく管理者等の責任者が実施し,今後の問い合わせ窓口についても,管理者に一本化することが必要です。
事故後の説明義務については,担当者のフォローを重視しすぎて,患者・家族への情報提供を疎かにすることは妥当でありません。
仮に訴訟となれば,担当者は,証人として尋問に応じる義務が生じ,結局事実関係について,説明を強制される立場にあります。そのことをふまえ,正確・迅速な説明義務を果たすため,医療機関として,患者の納得を得られる方法,担当者のフォローを考慮し,説明方法についてケースごとに検討することが必要でしょう。
【回答者】
舟木 諒 弁護士法人龍馬 ぐんま事務所 弁護士