【運動介入を行うとかえって転倒リスクが増大する場合もある】
高齢者の転倒は,大腿骨頸部骨折などの重大な障害をまねき,要介護状態をきたすことも多く,大きな社会的課題となっている。中でも,転倒事故を原因として死亡に至る,いわゆる「転倒死」の事例は今や年間7000件を超え,早急な対策が必要とされている。2014年に発足した日本転倒予防学会では,多職種連携による様々な取り組みがなされているが,地域における永続的な取り組みはいまだ少ない。筆者らの施設では,地域高齢者を対象に,転倒骨折予防プログラムの有用性を非ランダム化比較試験で検証し,その結果をふまえて予防,プログラムを確立した。1863人における長期成績では,転倒リスクの評価と個別のフィードバック,転倒予防教育を含む介入を実施することで転倒は43%減少し,長期的な受け入れも良好であった1)。
ただし,それぞれの集団としての特性や環境により,転倒リスクには大きな違いがあり,また,動作能力と転倒リスクとの関係も複雑である。すなわち,前虚弱状態の対象者への運動介入の取り組みは転倒リスクを軽減させる可能性があるが,虚弱者や重度の障害がある場合に運動介入を行うと,かえって転倒リスクが増大する可能性も指摘されている。そのため,どの時期にどのような介入を行うのか,その分岐点に関する見きわめが重要となっている。
【文献】
1) Otaka Y, et al:Geriatr Gerontol Int. 2017;17 (7):1081-9.
【解説】
三村聡男*1,里宇明元*2 *1慶友整形外科病院リハビリテーション科部長 *2慶應義塾大学リハビリテーション医学教授