【がん制御と機能温存を両立する新たな治療戦略】
2016年度版の「前立腺癌診療ガイドライン」において,focal therapyが治療戦略のひとつとして示された。focal therapyは,患者の予後に影響すると考えられるがん病巣を治療する一方,正常組織を可能な限り温存する,がん治療と患者の機能温存を両立することを目的とするものである。この治療は,核磁気共鳴画像─経直腸的超音波画像融合画像ガイド下生検などにより診断された前立腺内部における臨床的に意義のあるがん(significant cancer)の局在診断に基づいて行われる。
高密度焦点式超音波療法(HIFU)は,強力な超音波エネルギーを生体内の焦点領域に収束させ,熱効果およびcavitationと呼ばれる物理的効果により,標的組織を破壊することで治療効果を得る1)。また,HIFUは,治療領域をmm単位で自由な形に設定でき,穿刺操作なく治療領域と非治療領域の境界を明瞭にして治療可能という特長を持つ。
筆者らは,大学臨床研究審査委員会の承認のもと,16年4月よりHIFUを用いたfocal therapyの臨床研究を開始した。12カ月間以上経過観察した初期10例の年齢中央値は68歳,血清PSA中央値は7.07ng/mL,治療時間中央値は29.5分間で,全例が治療後24時間以内に尿道カテーテルを抜去,退院した。術後生検におけるsignificant cancer陰性率は90%,排尿,性機能および生活の質を示す質問票のスコアは,治療前と3カ月以降で有意な増悪は認められず,重篤な合併症は認められなかった2)。わが国においても,focal therapyは,治療戦略のひとつとして注目されると思われる。
【文献】
1) Fry WJ, et al:Science. 1955;122(3168):517-8.
2) 小路 直, 他:日泌会誌. 2018;109(4):194-203.
【解説】
小路 直 東海大学医学部付属八王子病院泌尿器科准教授