【質問者】辻村 晃 順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授
【がん治療前に精子を凍結保存し,挙児希望時に融解して使用する】
若年性のがん患者の治療成績は著しく改善していますが,疾患は治っても治療の晩期合併症に悩まされる可能性があります。妊孕機能の低下もその合併症のひとつです。若いがん患者の将来の希望を守るために,妊孕性の温存は非常に大切です。
精子形成の起点となる精原細胞は,放射線や抗癌剤の殺細胞作用に非常に感受性が高いと言われています。治療開始1〜2カ月で精子数は急激に減少し,薬剤や投与量によりますが無精子症をきたすこともあります。回復の有無・回復までの期間・回復の程度は治療後に残存する精原細胞の数に依存し,それは薬剤やレジメンの種類,投与量に依存します。
American Society Clinical Oncology(ASCO)は,がん治療における造精機能へのリスクを治療ごとに4段階に分類し,高リスクの治療では精子の保存を推奨しました1)。ただし中間リスクの治療でも無精子症が遷延・永続することがあるので,精子保存は行っておいたほうがよいと考えます。さらに同ガイドラインでは,すべてのがん治療を受ける思春期以後のがん患者に精子保存の話をすべきとしています。わが国でも,2017年7月に日本癌治療学会から「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版」が発刊され,生殖可能年齢にある患者には不妊の可能性,それに関する情報を伝え,生殖医療の専門家との連携のもと妊孕性温存治療の有無,その時期を評価することが必要とされています。
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