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特集:深掘り! 腎盂腎炎診療

No.5233 (2024年08月10日発行) P.18

谷崎隆太郎 (市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長)

登録日: 2024-08-09

最終更新日: 2024-08-07

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2006年埼玉医科大学卒業。宮城厚生協会坂総合病院,岐阜大学医学部附属病院高度救命救急センター助教,国立国際医療研究センター総合感染症コースチーフフェロー,三重大学医学部名張地域医療学講座講師などを経て,2019年より現職。大学と地域の総合病院の架け橋として,医学生,初期研修医,総合診療専攻医のすべてのフェーズで一貫した教育を提供している。

1 症状と診断

  • 腎盂腎炎は,原則として除外診断である。発熱+腰痛,発熱+尿中白血球陽性,発熱+尿中細菌陽性のいずれも腎盂腎炎とは限らない。
  • 男性の腎盂腎炎はすべて複雑性腎盂腎炎であり,尿路の閉塞機転や前立腺炎,精巣上体炎の所見を評価する。

2 原因微生物の考え方(抗菌薬の選択)

  • 腎盂腎炎の原因微生物で最も多いのは大腸菌であるが,尿グラム染色が菌種の判別に有効である。
  • 抗菌薬の先行投与歴や入院歴があれば,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌をはじめとした耐性グラム陰性桿菌の可能性を考える。
  • ESBL産生菌の治療にはセフメタゾールかピペラシリン・タゾバクタム,AmpC過剰産生菌の治療にはセフェピムを用いる。重症例では両者ともメロペネムで治療する。

3 治療と経過

  • 腎盂腎炎では,適切な抗菌薬治療開始後も解熱までの時間は中央値で38.5時間ほどかかるため,治療効果判定には尿グラム染色をはじめとした局所の指標を用いる。
  • 治療開始後72時間で解熱しない場合,ドレナージが必要な病態を検索し,閉塞機転がある場合は泌尿器科医にコンサルトする。
  • 適切な治療開始後,治療経過が良く合併症もなければ,7日間治療の成績は14日間治療と比べて非劣性である。

4 予防

  • 腎盂腎炎の予防には,飲水の励行,性行為前後での排尿,腟洗浄を控えること,排泄後には前から後へと清拭することなどが有効である。

1 臨床感染症の基本的な考え方POMA-R

臨床感染症の基本は,患者背景(Patient background),感染臓器(Organ),原因微生物(Microorganism)を特定し,原因微生物に活性のある抗菌薬(Antimicrobials)を選択することである。治療開始後は,臓器特異的な指標を中心にアセスメントを繰り返しながら(Reassessment)フォローアップしていくことが基本である。筆者は,それぞれの頭文字を取ってPOMA-Rと略して日常診療や感染症教育に利用している1)図1)。


腎盂腎炎は頻度の高い感染症のひとつであり,いわゆる尿路感染症と呼ばれる感染症のひとつである。腎盂腎炎以外の尿路感染症の中には,膀胱炎や前立腺炎,精巣上体炎などが含まれる。

2 腎盂腎炎の患者背景─Patient background

腎盂腎炎の可能性を高める患者背景といえば,女性,尿道カテーテル挿入中,尿路の解剖学的な異常(前立腺肥大症や尿路結石,腫瘍による尿路閉塞など),神経因性膀胱などである。尿路に解剖学的異常のない女性の腎盂腎炎を単純性腎盂腎炎,それ以外の腎盂腎炎を複雑性腎盂腎炎と呼ぶ。複雑性腎盂腎炎とは,尿路の解剖学的な異常(カテーテル留置や結石,腫瘍など)を有するもの,免疫不全者,耐性菌リスクを有するもの,高齢者,フレイル,妊婦,臓器移植後などを指す2)

腎盂腎炎は通常,直腸内の細菌が尿道内に侵入し,膀胱に到達したのち,上行性に腎盂に到達して発症する。女性は男性と比べて解剖学的に肛門と尿道の距離が近いため細菌が尿道内に侵入しやすく,また,尿道口から膀胱までの距離が短いので,ひとたび細菌が侵入すると膀胱までたどりつきやすいという特徴がある。

男性というだけで複雑性腎盂腎炎の扱いになるのは,前述した女性のような先天的な解剖学的リスク要因がないため,「男性の尿路感染症=何らかの新たな解剖学的異常の存在」が示唆されるからである。男性で尿路感染症かと思ったら,尿管結石,尿管腫瘍,膀胱腫瘍,膀胱結石,前立腺肥大症,尿道カテーテル留置の有無などを検索する必要がある。そして,解剖学的異常の検索だけでなく,前立腺炎,精巣上体炎の鑑別も必要であるため,直腸診で前立腺の圧痛と精巣上体の腫大,圧痛がないかも確認すべきである。なお,排尿時痛や尿道分泌物の増加,尿道からの排膿などがみられる場合には尿道炎の存在が疑われ,その原因の多くは性感染症なので,性交渉歴を聴取する(表1)。


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