シクロスポリンA(CsA),タクロリムス(TAC)はT細胞の増殖・活性化に重要なカルシニューリンを抑制する薬剤であり,カルシニューリン阻害薬(CNI)と呼ばれる
CNIはT細胞が病態に強く関与する臓器移植や一部の自己免疫性疾患の治療薬として広く使用されている
ループス腎炎においても,寛解導入や維持療法におけるいくつかのランダム化比較試験(RCT)で有用性が示され,治療選択肢のひとつとなっている
CNIは長期間,高濃度の使用により腎障害(細動脈硬化,尿細管変性,間質線維化)をきたすことがあり,血中濃度を測定しながら腎機能に注意して使用する必要がある
近年TACとミコフェノール酸モフェチル(MMF)を併用するマルチターゲット療法の有用性が報告され注目されている
我々の施設でもTAC+MMFにより多くの症例で早期寛解が得られ,ステロイドの早期減量が可能であった
最近voclosporinという新たなCNIとMMFによるマルチターゲット療法の第2相臨床試験において,MMF群と比較すると完全寛解の達成率が有意に優れているため,現在国際共同第3相臨床試験が行われている
T細胞の活性化や増殖を強力に抑制する物質として,1972年にノルウェーの土壌の真菌よりシクロスポリンA(CsA)が,1984年に筑波地方の土壌の放線菌よりタクロリムス(TAC)が発見された。1990年代初頭に両薬剤ともカルシニューリンという酵素を標的に免疫抑制作用を発揮することがわかり,カルシニューリン阻害薬(calcineurin inhibitor:CNI)と呼ばれるようになった。
カルシニューリンはT細胞抗原受容体(T-cell antigen receptor:TCR)/CD3複合体からのシグナルにより,細胞内カルシウム濃度が上昇した際に活性化する脱リン酸化酵素である1)。活性化したカルシニューリンは活性化T細胞核内因子(nuclear factor of activated T-cells:NF-AT)と呼ばれる転写因子を脱リン酸化し,これによりNF-ATは核内に移動する。核内のNF-ATはインターロイキン-2(interleukin:IL-2),IL-5,インターフェロン-γ(interferon:IFN-γ)の発現を誘導し,IL-2はヘルパーT細胞を活性化して,他のサイトカインの産生を促進し,また細胞傷害性T細胞とナチュラルキラー(natural killer:NK)細胞の機能を促進する。
CNIが細胞内において直接結合する蛋白(イムノフィリン)は,CsAはシクロフィリン,TACはFKBP12であり,まずCNIとイムノフィリンが結合し複合体となり,カルシニューリンを抑制する。これによりNF-ATの脱リン酸化が抑制され,NF-ATは細胞質内に保持される(図1)1)。
CNIはT細胞の増殖,サイトカイン産生,活性化を強力に抑制することより,T細胞が特に重要な働きをする臓器移植の拒絶反応を抑制するキードラッグとして使用されてきた。またT細胞が病態形成に深く関与する一部の自己免疫性疾患の治療薬として使用されている。全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE),ループス腎炎においてもT細胞が深く関わっており2),後述のようにループス腎炎を中心にその臨床的な有効性が証明され,特にわが国においては広く使用されている。
またCNIの作用機序として,糸球体足細胞(ポドサイト)への直接作用もin vitroの実験ではあるが示されている。1つはポドサイトの細胞骨格を形成する蛋白であるシナプトポディンの分解抑制作用であり3),もう1つは遺伝性ネフローゼ症候群の原因遺伝子として同定されたカルシウムチャネルTRPC6の活性化抑制作用である4)。CNIはループス腎炎においてポドサイトに直接作用して,蛋白尿の減少や糸球体硬化の進展を抑制する可能性がある。