複数の観察研究によりヒドロキシクロロキン(HCQ)の腎保護作用が報告されている。禁忌や重度の腎不全がない場合,ループス腎炎の補助療法としてHCQの使用は考慮される
腎機能低下はHCQ網膜症の最大のリスクである。腎機能が低下している症例で長期にHCQを使用する場合は減量投与のうえ,眼科でのモニタリングはより慎重に行う
抗マラリア薬ヒドロキシクロロキン(HCQ)は半世紀以上前より全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)の標準的治療薬として広く使用されている。
第一の薬理作用はToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)の機能の阻害である。SLEにおいてはDNA,RNAに対する自己抗体が産生されるが,これら自己抗体と核酸による免疫複合体はエンドソームにおいてTLRにより認識され,Ⅰ型インターフェロン(interferon:IFN)産生を誘導する。HCQはエンドソームのpHを上昇させることにより,または核酸への直接結合によりTLRの活性化阻害を行う。第二の薬理作用は,エンドソームpH上昇作用を通じて抗原提示を阻害することである。そのほかにも多彩な作用が報告されている。
長年の臨床使用経験よりSLEの皮膚症状や関節症状に有効性が高いことが知られていたが,わが国での治験で皮膚病変に対する高い有効性が確認された1)。1991年にランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)でSLEの再燃リスクの低下が示され2),2000年代になり多くの観察研究で臓器障害発生リスク3)4),死亡リスク5)~7),血栓症のリスク,感染症のリスクなどの低下が次々に報告された。その結果,臓器合併症の有無にかかわらず,すべてのSLE患者に対してHCQの使用が推奨されるようになった8)~11)。なお,妊娠中12)や小児13)でも使用が推奨されている。
一方,わが国ではクロロキン(CQ)が腎炎に対して不適切に使用された結果,重症のCQ網膜症が多発し薬害に発展しCQは販売中止となった。その後,海外では網膜毒性が低いHCQがSLEの標準的治療薬として使用されるようになっても,わが国でHCQは開発されなかった。このため,わが国のSLE治療は「ガラパゴス化」した。しかし,2015年にわが国でHCQとミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil:MMF)が承認され,2017年にベリムマブが承認され,海外と同等の治療ができるようになった。これらの薬剤も含めた,現在の当科でのSLEの治療アルゴリズムを図1に示す(文献14をもとに当科で改変して使用)。