(秋田県 F)
【患者の状態や筋肉,心,血液などの症状を加味して投与するのがよい】
生体内のカルニチンの75%は食事から摂取され,残り25%が肝・腎・脳で合成されます。体内のカルニチンのほとんどは心筋・骨格筋などの組織中に分布し,血中のプールはわずかです(約0.6%)1)。
カルニチンは,脂肪酸と結合していない遊離カルニチンと,脂肪酸とエステル結合しているアシルカルニチンという形で存在しています。カルニチンの働きとしては,「ミトコンドリア内への長鎖脂肪酸の運搬に必須で,長鎖脂肪酸のβ酸化によるエネルギー代謝(ATP産生)を促進する」「細胞毒であるアシル化合物を細胞内から除去する」「赤血球膜などの生体膜の安定性を維持する」などが挙げられます。
透析患者のうち,特に血液透析(hemodialysis:HD)患者の多くは,経口摂取量の減少・生合成の減少・さらにHDによるカルニチン喪失が繰り返されることにより,遊離カルニチンの欠乏が起こりやすいと言われています1)2)。
ご指摘のように,遊離カルニチンが20µmol/L未満の場合,「カルニチン欠乏症が発症している」あるいは「いつカルニチン欠乏症が発症してもおかしくない」状態と考えられます1)。
近年,透析患者特有の筋肉症状(こむら返り・筋力低下等),心症状(心機能低下・心筋症等),エリスロポエチン抵抗性貧血などの発症原因の1つにカルニチン欠乏が関与していると考えられています。これらの透析によるカルニチン欠乏の症状はdialysis-related carnitine deficiencyあるいはdialysis-related carnitine disorder(DCD)と呼ばれています1)。透析患者の場合,カルニチン欠乏以外にも,酸化ストレスや炎症反応の亢進,動脈硬化や低栄養の進行等,様々な要因が重なってそれらの症状を発現していると考えますので,まずはそれらの症状に直接関連していると考えられる原因を取り除くように治療されるのがよいと思います。
それでも症状が持続するようであれば,透析患者へのカルニチン製剤の投与によって,ヘモグロビン値が改善し,造血剤の投与量を減量できた3),心機能が改善した4)という報告があるため,カルニチンの投与開始を検討する適応があると考えます。
カルニチンの副作用としては,主に食欲不振・下痢・軟便・腹部膨満感等の消化器症状が挙げられます。また,カルニチンの経口摂取の場合,腸内細菌を介してトリメチルアミン-N-オキシド(trimethylamine-N-oxide:TMAO)が産生され,TMAOがアテローム性動脈硬化を促進するという報告があります5)。
臨床症状を改善させる効果が認められる場合でも,カルニチンの投与量・投与期間については,まだ確立されたエビデンスがないため,漫然と投与するのは控えたほうがよいと考えられます。今後の検討が待たれます。
ご質問の回答としては,カルニチン投与はそれぞれの患者の状態や症状も加味して投与したほうがよいと考えられます。
【文献】
1) 日本小児医療保健協議会栄養委員会(委員長:位田 忍):カルニチン欠乏症の診断・治療指針 2018.
[https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2018 1207_shishin.pdf]
2) Bellinghieri G, et al:Am J Kidney Dis. 2003;41 (3 Suppl 1):S116-22.
3) 武内 操, 他:日透析医学会誌. 2012;45(10):955-63.
4) Schreiber B:Nutr Clin Pract. 2005;20(2):218-43.
5) Koeth RA, et al:Nat Med. 2013;19(5):576-85.
【回答者】
瀧口梨愛 神戸市立医療センター西市民病院腎臓内科副医長