No.4950 (2019年03月09日発行) P.63
岩田 晃 (大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科准教授)
山本沙紀 (大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)
登録日: 2019-03-08
(大阪府 C)
【立ち上がりテスト,Timed Up and Go testなどがある】
歩行速度を知るためには,実際に歩行速度を計測することが適切かと思いますが,椅子立ち上がりテストや,歩行と立ち上がりを組み合わせたテストによっても移動能力を判断することができます。ここでは,歩行速度,立ち上がりテスト,Timed Up and Go test(TUG)について述べたいと思います。
まず,歩行速度については,加速域,減速域を1~1.5m設けて,中間4~10mを歩くのに要した時間をストップウォッチで計測するのが標準的な方法です。このため少なくとも6m以上の歩行路が必要になり,8mあれば十分な再現性が得られます。歩き方としては,最速よりも通常歩行が広く用いられています。また,ADLの低下や転倒に関する歩行速度のカットオフ値は1.0m/秒とされることが多いことから1),計測した時間と距離が同じ(5mなら5秒以内)であれば,自立生活には大きな支障がないととらえることができます。臨床的に意義のある変化(minimal clinically important difference:MCID)は,0.08~0.10m/秒とされていますので,これ以上の変化が認められる場合には,歩行速度の低下や向上があると判断できます。
次に,椅子立ち上がりテストは,下肢筋力や移動能力,バランス機能,転倒との関連が示されている指標です。テストの方法としては,一定の回数(3,5,10回)に要した時間を計測する方法と,一定時間内(10,30秒)に何回行うことができるかをカウントする方法があります。ここでは簡便で広く用いられている5回立ち上がりテストについて述べます。
開始肢位は標準的な高さの椅子での坐位とし,患者にできるだけ早く5回立ち座りするように伝え,開始の合図から5回目の立位になるまでに要した時間をストップウォッチで計測します。筆者らの健常高齢者を対象とした研究では平均7.7秒で2),地域在住高齢者の転倒のカットオフ値としては,12~15秒とされています1)。また,14秒以上でバランス機能の低下が認められるとの研究があります。さらに,椅子からの立ち上がりテストは,大腿骨骨折や要介護状態の予測因子となることが示されており,5回立ち上がりテストに12秒以上要する場合は注意が必要と考えられます。
さらに,歩行と立ち上がり動作を組み合わせたテストとしてTUGがあります。開始肢位は椅子坐位で,測定者の開始の声かけで,椅子から立ち上がり,通常歩行速度で3m先のラインを超え,ターンし,元の椅子に戻って完全に座るまでの時間をストップウォッチで計測するテストです3)。このテストは歩行,方向転換,立ち上がり,座り込みの各動作を含んでおり,移動能力だけでなく,バランス能力の指標としても有用です。
筆者らの研究では,健常高齢者の平均が7.3秒2),施設入所高齢者が19.2秒でした4)。また,TUGは転倒ハイリスク者の選定に有用とされ,カットオフ値は13.5秒とされています5)。日本整形外科学会の運動器不安定症の診断基準では,11秒をカットオフ値としています。これらのことから,おおよそ10秒以上かかる場合には,移動能力,バランス機能の低下を疑う必要があると考えられます。
【文献】
1) Tiedemann A, et al:Age Ageing. 2008;37(4): 430-5.
2) Iwata A, et al:Arch Gerontol Geriatr. 2014;59 (1):107-12.
3) Podsiadlo D, et al:J Am Geriatr Soc. 1991;39 (2):142-8.
4) Iwata A, et al:Arch Gerontol Geriatr. 2013;56 (3):482-6.
5) Beauchet O, et al:J Nutr Health Aging. 2011; 15(10):933-8.
【回答者】
岩田 晃 大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科准教授
山本沙紀 大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科