リン(P)は細胞内シグナリングや細胞膜形成に必須の元素であり,不足すると心機能低下,溶血性貧血,呼吸筋疲労などが出現する可能性がある。血清P濃度制御において重要な臓器は腎である。ビタミンDは腎で活性化されて腸管からPの吸収を促進する。一方で,尿中へのP排泄量を適切に保つことで血清Pを一定に保つ。しかし,尿中へのP排泄が亢進した状態が持続すると血清Pは低下する。
尿中P排泄量のカギとなるホルモンは,P利尿ホルモンである副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)と線維芽細胞成長因子23(fibroblast growth factors 23:FGF23)で,これらが過剰になると尿中P排泄が過剰になる。通常,尿中への排泄が亢進しても骨吸収が起きて代償されるが,食事からの摂取量や骨ミネラル,活性型ビタミンDが不足すると血清Pは低下する。
血清P値はインアウトバランスで決まるため,まずはインが少ないのかアウトが多いのかを評価することが重要である。
食事,経管栄養,経静脈栄養のメニューをみて,P含有量が適切かどうかをチェックする。臨床でよく遭遇するのは経口摂取が困難となり,経静脈栄養もしくは経管栄養管理となった患者への,PやビタミンD投与量が不適切(医原性)に少ない場合である。嘔吐や下痢があると吸収不良をきたすため,症状の有無にも注意が必要である。
P摂取量が十分な例では,まず尿中ミネラル排泄分画を調べる。尿中P排泄分画が上昇していればP利尿ホルモンの作用亢進が疑われるため,intact PTH(可能ならばFGF23も。ただし保険適用外)を調べる。25(OH)D,1,25(OH)2D3不足も腸管からのP吸収が低下し,副甲状腺機能亢進症(hyperparathyroidism:HPT)をもたらすため,同時に調べる。25(OH)Dは栄養ビタミンD摂取量,1,25(OH)2D3は活性産物を反映するため,同時に測定することが望ましい。しかし,後者は慢性腎不全,副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症で保険適用されているが,前者ではくる病と骨軟化症しか保険適用されていない点に注意を要する。P以外のミネラル,尿酸,糖の尿中への排泄亢進があり,HCO3-の尿中排泄が明らかであればFanconi症候群を考える。
血管内から血管外への流出がみられる場合も血清P値が低下する。代表的疾患としてrefeeding症候群,hungry bone症候群が挙げられる。極端に慢性的に栄養が障害されている患者に突然糖質を投与すると,血中のミネラルが細胞内に移動してミネラル欠乏が顕在化して,心筋障害,中枢神経障害,筋障害などが生じる病態で,K,P,マグネシウム(Mg)といったミネラル欠乏が高度となる。hungry bone症候群はHPTに対する副甲状腺摘出直後に生じ,骨へミネラルが大量に取り込まれて血清Pが低下する。
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