(青森県 W)
【代償的に蛋白質摂取量が増加することによるhyperfiltrationの可能性】
2型糖尿病において短期間では糖質制限食によって腎障害は生じないことがメタアナリシスで示されています1)。総12件(対象者942人:最長追跡期間2年)の研究のメタアナリシスの結果,推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR),クレアチニンクリアランス,尿中アルブミン,血清クレアチニン,いずれの腎機能指標も有意差を認めませんでした1)。ただし,長期間のエビデンスはまだありません。
確かに,糖質制限をすると代償的に蛋白質摂取量が増加することが多く,高蛋白質食が腎障害をもたらす懸念があります。その一機序として,蛋白質摂取過剰により腎血流量が増加し,GFR・糸球体内圧上昇によって腎障害が生じるという仮説が提唱されています(hyperfiltration説)。
しかし,メタアナリシス1)で現実には各種腎機能指標に有意差がなかったのは,糖質制限の結果,短期間(6~12カ月間)ですが,血糖コントロールが改善する2)ことで腎障害のリスクが相殺されたからかもしれません。
糖尿病腎症・糖尿病性腎臓病の診断にはeGFR,尿アルブミン(尿蛋白)の測定が基本です。腎障害合併時には血糖・血圧・脂質のコントロールと食塩摂取制限が推奨されます3)。蛋白質摂取制限も有効である可能性があるため4),糖質摂取制限する際は他の栄養素とのバランスが一層重要となるでしょう。
【文献】
1) Suyoto PST:Diabetes Metab Res Rev. 2018;34 (7):e3032.
2) McArdle PD, et al:Diabet Med. 2019;36(3): 335-48.
3) 日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2016. 南江堂, 2016.
4) Hansen HP, et al:Kidney Int. 2002;62(1):220-8.
【回答者】
能登 洋 聖路加国際病院内分泌代謝科部長