アルポート(Alport)症候群は進行性の遺伝性糸球体疾患であり,末期腎不全に進行する症例が多い。古典的には進行性の遺伝性腎症(しばしば腎炎とも呼ばれる)に難聴を伴う症候群を指すが,近年ではⅣ型コラーゲン遺伝子変異によるものとするのが一般的である1)。Ⅳ型コラーゲン分子の異常により,糸球体基底膜の構造に破綻をきたし末期腎不全に進行する。約8割がX連鎖型であるが,常染色体劣性・優性のものもある。頻度は約5万出生に1人との報告がある1)。X連鎖型男性患者の多くが感音性難聴を呈する。特徴的眼病変を認める場合がある。
病初期には血尿が唯一の所見である。血尿患者を診たときに,患者やその家族が積極的に家族の検尿異常を述べるとは限らないので,できる限り詳細に家族歴を聴取し,腎不全の家族歴がある場合は積極的に腎生検を考慮する。光学顕微鏡所見では診断は不可能で,電子顕微鏡による糸球体基底膜の特徴的変化により診断可能である1)。Ⅳ型コラーゲンの免疫染色により診断できる場合もある1)。遺伝子解析により原因と考えられる変異を同定すれば,確実な診断となる。診断に難聴は必須ではない。
蛋白尿は進行とともに増加し,ネフローゼ症候群を呈することもある。発熱時の肉眼的血尿はIgA腎症でよく知られているが,アルポート症候群でもめずらしくないことに留意が必要である。
これまで臨床的に良性家族性血尿ととらえられてきた家系の大部分はⅣ型コラーゲン遺伝子の変異によると推測され,それらの家系において必ずしも腎機能予後は良好でない症例が存在し,常染色体優性型のアルポート症候群と考えられる2)。
現時点では疾患特異的治療はなく,対症療法が中心である。投薬なしでの末期腎不全進行への自然歴は,Ⅹ連鎖型男性患者で25歳までに50%,42歳までに90%とされる3)。
保存期には,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(angiotensin Ⅱ receptor blocker:ARB)の腎不全進行抑制効果を示唆する報告があり,第一選択と考えられる1)。ただし,一般的にACE阻害薬やARB使用中は,容易に脱水から腎機能低下を引き起こすので,水分が十分摂取できないときは中止するなどの指示が重要である。これらは催奇形性があるので,妊娠可能年齢になった患者・家族には十分に説明を行い,挙児希望がある場合は投与を中止する。
腎代替療法について,アルポート症候群患者の透析導入後および腎移植後の予後は,他疾患に存在する腎予後に影響する併存合併症が少ないために良好である1)。
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