前立腺炎症候群とは,前立腺とその周辺組織で発症する一連の炎症性疾患の総称で,50歳未満の男性の前立腺疾患で最も頻度が高く,50歳以上では前立腺肥大症,前立腺癌についで多いと言われている。
一般的に前立腺炎は,1995年に米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が提唱した病型分類により4つにわけられる1)。
カテゴリーⅠは急性細菌性前立腺炎(悪寒戦慄を伴う発熱・全身倦怠感などの全身症状と排尿時痛・尿意切迫感・頻尿・排尿困難・会陰部不快・疼痛などの局所症状),カテゴリーⅡは慢性細菌性前立腺炎(下腹部を中心に会陰・陰囊・尿道に放散する疼痛や不快感,頻尿,射精時痛など症状は多岐にわたり,急性増悪時以外は炎症反応を認めることは少ない),カテゴリーⅢは慢性非細菌性前立腺炎(chronic prostatitis:CP)/慢性骨盤痛症候群(chronic pelvic pain syndrome:CPPS)(持続的な骨盤痛を主体とした症状が3カ月以上持続),カテゴリーⅣは無症候性炎症性前立腺炎(症状はないが,検体中に白血球や細菌を確認),さらにカテゴリーⅢは炎症の有無によりⅢA:炎症性,ⅢB:非炎症性に分類される。
炎症の有無は前立腺マッサージ前後の尿所見により診断する2-glass testを行う。分尿検査の結果,前立腺マッサージ後尿(voided bladder urine 3:VB3)に細菌および白血球が認められる場合はカテゴリーⅡ,白血球のみ認める場合はカテゴリーⅢA,症状を有するものの細菌および白血球いずれも認めない場合はカテゴリーⅢBと診断する。
カテゴリーⅠはグラム陰性桿菌に抗菌活性のある注射用抗菌薬を入院の上,補液とともに開始する。カテゴリーⅡは外来治療が中心となるため,前立腺移行性に優れた経口キノロン薬が選択される。前立腺組織に明らかな炎症が存在すれば,血管透過性が亢進するためそれ以外の経口抗菌薬も有効である。治療効果を上げる目的で,外来受診時に注射用抗菌薬の単回投与も選択肢に挙がる。カテゴリーⅢは複数の要因が複雑に結びついているため病態を正しく解明することが困難で,泌尿器科専門医の間でも難治性と認識されている。様々な治療薬の有効性に関する論文が発表されているが,評価は一致していない。一般的には,経口抗菌薬もしくは抗炎症薬の投与から開始して,無効ならα1遮断薬を追加する。第二選択薬はセルニルトン®や生薬となる。前立腺マッサージが有効な症例も存在する。男性更年期の症状が合併している症例では,抗うつ薬や勃起不全改善薬などが有効である。カテゴリーⅣは無治療となる。
カテゴリーⅠは有効な抗菌薬を投与しても通常解熱までは2~3日を要するため,効果判定は投与開始後4日目に行う。細菌性前立腺炎の起因菌は大腸菌が最も頻度が高いが,キノロン耐性が市中感染でも30%を超すことが報告されているため,抗菌薬の投与歴や各施設の耐性率に注意して抗菌薬を選択するべきである。
カテゴリーⅠの症例では前立腺マッサージにより菌血症や敗血症性ショックのリスクが高くなるので,禁忌である。
残り1,153文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する