前立腺肥大症は,前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患で,通常は前立腺腫大と膀胱出口部閉塞を示唆する下部尿路症状を伴う。膀胱出口部閉塞は尿道抵抗を増大させ,排尿症状をきたす。同時に膀胱の伸展・虚血・炎症・酸化ストレスをもたらし,膀胱支配神経や平滑筋の変化および尿路上皮由来の伝達物質の放出などを介して蓄尿症状をきたす。
下部尿路症状は排尿症状,蓄尿症状,排尿後症状に分類される。夜間頻尿は下部尿路症状の中で最も頻度が高く,下部尿路機能障害以外の原因(夜間多尿や睡眠障害)が関与するので注意を要する。下部尿路症状の種類と程度を適切に把握することは,原因疾患の診断や重症度・治療効果の判定に重要である。
診断にあたっては症状と病歴の聴取,国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)・QOLスコア・過活動膀胱症状スコア(overactive bladder symptom score:OABSS)などの質問票による症状・QOL評価,身体所見,尿検査,血清前立腺特異抗原(prostate-specific antigen:PSA)測定(前立腺癌の否定),尿流測定,残尿測定,前立腺超音波検査(前立腺容量の測定)を行う。
下部尿路症状の原因が前立腺肥大症と推定される場合は,患者の治療希望と治療の必要性(重度な症状,大きな前立腺腫大,合併症の存在など)を確認する。治療の希望・必要のない場合は,経過観察を考慮する。治療の希望・必要がある場合は,まず行動療法や薬物療法を考慮する。
薬物療法はα1遮断薬またはphosphodiesterase 5(PDE5)阻害薬を基本とする。前立腺容量が30mL以上の場合は5α-還元酵素阻害薬の併用・変更を,過活動膀胱(overactive bladder:OAB)症状が明らかな場合(OABSS 6点以上を目安)は抗コリン薬またはβ3作動薬の併用を考慮する。これらの治療でも効果が不十分な場合は,手術適応に関する評価を考慮する。手術適応は,不十分な症状の改善のほかに,尿閉・血尿・膀胱結石・腎機能障害・尿路感染症などの合併がある場合である。
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