精巣上体炎は,外来受診患者の成人における陰囊痛の最も一般的な原因であり,その発生率は,1万人当たり25~65人である。
感染経路は通常,膀胱,尿道,または前立腺の感染が射精管から精管を経由し精巣上体に達し発症する。結核菌は血行性,精管内性,リンパ行性の3つが考えられているが,ほとんどが血行性感染である。
誘因は,性行為感染,前立腺肥大症,神経因性膀胱,糖尿病,低免疫状態などの患者側因子と,尿道カテーテル留置,経尿道的前立腺手術,膀胱尿道内視鏡検査,BCG膀胱内注入などの医療側因子が挙げられる。慢性精巣上体炎では,炎症,感染,尿路や精路の閉塞などが挙げられるが,要因が特定できる症例は少ない。
年齢層において推定される原因菌の頻度が異なる。若年者では性感染症としてクラミジアや淋菌が多く,年齢が進むにつれて大腸菌を中心とした腸内細菌科の頻度が高くなる。
幼少期や若年者の場合には,まず緊急を要する精索捻転症を除外する必要がある。
両側例であれば男性不妊症の原因となりうるため,患者への説明が必要となる。
陰囊の自発痛と,圧痛や陰囊腫大などの局所症状と,発熱や全身倦怠感などの全身症状を主訴とする。クラミジア性や結核性は症状が緩徐なことがある。
精巣上体の不快感や鈍痛を主訴とするが,通常は発熱を認めない。
血液検査では,炎症反応(WBC,CRP,PCT)高値が認められる。
尿検査では,尿道炎を合併していなければ膿尿や細菌尿が認められないことが多い。性感染症が疑われた場合,尿道炎と同様,淋菌やクラミジアの検査を行う。
超音波検査では,精巣上体の腫大を認め,健側と比較して血流の亢進がみられる。思春期までの年齢層では,まず精索捻転症の鑑別が必要となる。
触診では,患側の陰囊を持ち上げると疼痛が軽減する(Prehn徴候陰性)。
血液検査や尿検査では,検査異常が認められないことが多い。
各年齢層において推定される原因菌が異なることを念頭に置くべきである。
高齢者では,大腸菌を中心とした通常の腸内細菌科細菌を推定し,軽症例はキノロン系経口薬を選択する。重症例であれば,入院の上で第3・4世代セフェム系静注薬を選択する。初期治療薬に抵抗する症例には,結核菌を考慮する。
性的活動期では,まず性的交渉の有無について確認する。性的交渉があれば,性感染症の有無を検査し,クラミジアや淋菌が検出されれば,前者にはアジスロマイシン経口薬,後者にはセフトリアキソン静注薬を選択する。
主な症状は陰囊の疼痛症状であるため,治療は非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)を中心とした対症療法となる。
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