血管腫は,脈管の増生・増大によるため,血管病変・リンパ管の異常による。国際血管奇形研究学会(ISSVA)の内皮細胞増殖のあるなしで,脈管腫瘍と脈管奇形にわけている。基本的にISSI総分類に基づく用語を使い,あいまいに「血管腫」とだけ呼ぶのは避けるのがよいとされる。
腫瘍性病変:乳児血管踵(苺状血管腫),先天性血管腫,カポジ肉腫様血管内皮腫,など
脈管奇形:毛細血管奇形,リンパ管奇形,リンパ管腫症・ゴーハム病,静脈奇形,青色ゴムまり様母斑症候群,動静脈奇形,など
分類不能:カポジ肉腫様リンパ管腫症,筋肉内血管腫,など
とされている。
赤アザとなるのは血管腫で,一般外来で問題となるのは,乳幼児血管腫(苺状血管腫)と先天性血管腫,房状血管腫などがある。一方,脈管奇形では,毛細血管形成異常の単純性血管腫(ポートワイン母斑),サーモンパッチ,正中線母斑,Unna母斑と,静脈形成異常(海綿状血管腫),リンパ管形成異常,動静脈奇形などがある。
単純性血管腫は,平らで,生下時に体表のどこにでも認められる。顔面では三叉神経第1~3枝に沿って出る傾向にある。口唇や歯肉にも広がる。
緑内障や分裂脊髄の場合に合併する場合があり,スタージ・ウェーバー(Sturge-Weber)症候群やクリッペル・トレノネー(Klippel Trenaunay)症候群などの場合もある。
顔面で,全額部にわたる場合は,神経・脳の器質異常が多いとされる。
年齢とともに,青年期になると盛り上がりと暗赤色調になり,血管腫様,結節となる。乳児血管腫は,MRI(脂肪抑制画)が有用である。
単純性血管腫は,皮膚温は周囲と同じが一般的である。
眼周囲に血管腫がある場合,Sturge-Weber症候群では,60%程度に緑内障が発症するという。眼瞼周囲に単純性血管腫がある場合は,緑内障の発症が多いとされる。顔面に単純性血管腫と緑内障がある場合は,軟膜への浸潤やSturge-Weber症候群を考慮する。なお,単純性血管腫とSturge-Weber症候群は,体細胞遺伝子のGNAQの変異が共通とされる。
皮疹部位周囲の軟部組織の増生や,骨の進展がある場合がある。下肢,指などで,皮疹部位が他側より長くなることがある。
2枝以上の領域の単純性血管腫や神経症状がある場合は,頭部MRIによるSturge-Weber症候群の鑑別が必要である。
超音波診断による検査も有用な場合がある。
新生児初診時に扁平であることもあるが,単純性血管腫と異なり,毛細血管がバラバラにみえたり,蒼白部位がみえたりする場合がある。いずれにしろ,乳幼児血管腫では時間とともに隆起してくる。
胎盤絨毛膜の微小血管を構成する細胞と類似した毛細血管内皮細胞の腫瘍性増殖(GLUT1陽性)とされる。女児で低出生体重児に多い(1000g以下では4人に1人)。
新生児の眉間や上眼瞼や頸,前額部,後頭部に血管性紅色皮疹が高率にみられる。後頭部以外は,自然消退する。
早期退縮型先天性血管腫(rapid involuting congenital hemangioma:RICH)は乳児血管腫(特に皮下型)に似る。1~2年で改善する(GLUT1陰性)。
房状血管腫(tufted angioma:TA)は,多くは孤立性に生じる血管腫で,皮膚血管芽細胞腫(中川)もここに含まれる。比較的大型のものはKasabach-Merritt現象に注意する。
新生児・乳幼児での来院では,検査が困難な場合が多く,保存的治療かどうかが問題となる。出血などが続く場合,視力,聴力などに影響する場合,急速に大きくなる場合,血小板減少をきたす場合など,個々の状態,部位,さらには15年後の予測される状況を勘案して対応する。病理診断が重要ではあるが,日常臨床では生検同意や造影などが困難で,確定診断が困難であることが多い。
一般的には,手術療法(外科的切除),硬化療法,凝固療法(液体窒素,ラジオ波,電気凝固,CO2照射),薬物療法(プロプラノロール,ステロイド,インターフェロンアルファ-2a,抗腫瘍薬),レーザー療法,保存療法などを組み合わせる。
頻度的には,乳幼児血管腫(苺状血管腫)と単純性血管腫(ポートワイン母斑)が多いので,盛り上がりの有無で観察するのがよい。多くが出産直後に赤アザを指摘され産院,産科からの紹介で来院する。盛り上がりがなく,赤ワイン色で拡大傾向がなければ単純性血管腫とひとまず考え,変化が出るようなら早めの受診を勧める。単純性血管腫として経過観察するも,変化がなければ,成人での整容的問題を考え,レーザー治療を勧める。3カ月検診で指摘され来院する場合は,出生時には気がつかなく,後にしだいに明らかになっていて,盛り上がってきていることが多い。この場合は,乳幼児血管腫の頻度が高い。
一般に隆起している場合で,眼周囲や耳介周囲に血管腫を認め視力・聴力に障害を起こす可能性がある場合は,早期よりプロプラノロールの内服を勧める。びらん,潰瘍,出血のある場合は,プロプラノロール内服を積極的に使用して増殖を抑制し,ダイレーザーを用いて,後に瘢痕,毛髪消失などの問題を可能な限り回避する。ただし,本来毛髪などがあるべき部位では,経過観察するのもよい。5年程度で再生してくることが多いので,配慮が必要である。
レーザー治療ではダイレーザーに保険適用がある。瘢痕を起こさぬよう,照射方法を工夫する。照射部位,予定部位で細菌感染,ウイルス感染が起こっている場合は照射を避ける。上眼瞼,下眼瞼への照射では,レーザー光が視力に影響しないよう防具(セラミックス保護具など)を使う。
1歳を過ぎる頃から,照射による痛み,部位を固定するための恐怖から,レーザー照射に安全な体位が取れなくなる。局所麻酔用テープやクリームを使用しても,小学校高学年まで多くは治療困難となるので,全身麻酔での治療が必要となることが多い。
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