繰り返す運動負荷に適応するため,ポンプ機能を高めて末梢筋肉への十分な酸素供給を可能にしようとする,心臓の良性の形態的機能的リモデリングである。
正常の左室壁応力を維持するために拡張末期容積の増加とバランスのとれた心肥大を呈するが,冠動脈血流は維持される。
持久力トレーニングでは,容量負荷の結果,左室の遠心性肥大と左房や右室の軽度拡大を示す。筋力トレーニングでは圧負荷の結果,求心性肥大をきたす傾向を示すが,間欠的でValsalva負荷に伴う前負荷減少も伴うため,顕著な変化ではない。
典型的には,2年以上トレーニングを繰り返し行うような若年競技者の心臓にみられ,運動を数カ月以上休止すると元の状態に戻る。
心陰影の拡大を認めるが,心胸比(cardiothoracic ratio:CTR)は55%を超えない。
左室内径に見合った肥大があることが特徴で,
relative wall thickness=(心室中隔厚+左室後壁厚)/左室拡張末期径<0.45
が維持される。
拡張末期径が58mm,壁厚が15mmを超えることは通常なく,収縮能,拡張能いずれも正常で,一部の例では左房径や右室径が40mmを超える。
QRS波高の増高を示す傾向があるが,通常ST変化を伴わない。時に不完全右脚ブロックや早期再分極を認めることがある。迷走神経緊張の結果,安静時に洞性徐脈やⅠ度房室ブロック,時にWenckebach型Ⅱ度房室ブロックを呈する。
①運動機能が優れていることに加え,肥大と拡大のバランスが取れている。
②心電図や心エコーで典型的な肥大型心筋症所見を認めないことに加え,MRIのガドリニウム遅延造影で限局性線維化を認めない。
③運動期間の延長に伴って肥大が進み,数カ月~数年の運動休止によって肥大が退縮する。
④危険な不整脈の出現を認めない。
アスリートの検診において,胸部X線上の心胸比,心エコー上の左室拡張末期径と壁厚などの増大,心電図上の左室肥大所見などから心臓肥大や拡大が疑われたとき,図のような流れでスポーツ心臓(athlete heart)を診断する。
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