眼内リンパ腫とは,眼内に発生する悪性リンパ腫で,病理組織学的にはそのほとんどがびまん性大細胞性リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL)に相当する。硝子体混濁と,網膜(下)に限局性あるいは広範囲な斑状病巣を形成する2つの病型があり,特に前者はぶどう膜炎との鑑別が問題となる。眼内リンパ腫発症後,数カ月~数年後に中枢神経系リンパ腫を併発する場合と,中枢神経系リンパ腫の経過中に眼内リンパ腫を発症する場合があるが,眼病変は前者のパターンのほうが多い。
50~60歳以上で,ステロイド治療に反応しない非感染性ぶどう膜炎様の臨床所見を呈する症例では本症を疑う必要がある。診断の確定には硝子体を採取し,細胞診,サイトカイン(IL-10およびIL-6)の測定,PCRによる免疫グロブリン遺伝子再構成の有無を確認する。ただし,硝子体混濁が乏しい,あるいは存在しない場合には細胞診は無効であり,臨床所見と経過,あるいは臨床所見とサイトカインの測定結果をもとに診断せざるをえない場合もある。
眼病変が先行して発症し,診断が確定された場合には,まずは中枢神経系リンパ腫の有無を確認する。既に中枢神経系リンパ腫を発症している場合には,血液内科等の当該診療科によるメトトレキサート(MTX)大量投与を中心とした全身化学療法を優先する。この治療が結果的に眼病変の改善につながることもある。
眼病変に対する治療は,年齢,片眼性か両眼性か,全身状態などを考慮しつつ,眼部への放射線照射,もしくはMTXの硝子体注射のいずれかを行う。
放射線治療では通常,照射開始後から徐々に網膜(下)病巣は縮小し,萎縮・瘢痕化していくが,硝子体混濁は残存することが多い。放射線治療の副作用として,急性期には皮膚炎や角膜上皮障害等を,晩期には白内障やマイボーム腺機能不全などを生じる可能性があるが,いずれも自然治癒するか,もしくは治療によって回復可能なことが多い。
MTX水溶液の硝子体内注射も,数回行うことによって網膜(下)の斑状病巣は縮小していくが,長期にわたって繰り返す必要がある。MTX注射の投与間隔や投与期間について厳密なルールはないが,数カ月間は行うことになる。副作用として,結膜充血や角膜上皮障害をきたすことがある。
MTX硝子体注射の効果が不十分,あるいは重篤な角膜上皮障害等の副作用のため継続注射が不可能な場合には,抗ヒトCD20ヒト-マウスキメラ抗体であるリツキシマブ水溶液の硝子体内注射が行われることがある。ただし,至適投与間隔や期間は,現状では不明である。
放射線照射,MTXおよびリツキシマブ硝子体内注射のいずれの治療法を行ったとしても,眼内病変は再発することが多い。再発した場合,MTXの注射は基本的には何度でも繰り返すことができるが,放射線の再照射は不可である。なお,眼内病変に対する治療を行っても中枢神経系リンパ腫の発症抑制にはつながらないことが明らかにされている。
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